海洋生物由来の天然化合物ecteinascidin 743 (ET-743)と類似骨格を有する化合物safracin (Pseudomonas由来)およびsaframycin (Streptomyces由来)の異種生産を行うため、まず各化合物を生産する菌株ゲノムの細菌人工染色体 (BAC)ライブラリーを作製した。さらに同菌株のドラフトゲノム配列を取得した。この配列に基づいてBACライブラリーのスクリーニングを実施し、各生合成遺伝子クラスター全長を含むクローンを取得することに成功した。 Safracin生合成遺伝子を含むBACを、汎用ホストであるPseudomonas putidaのゲノムに組み込むことでsafracinの異種生産に成功した。これ以降の研究を効率よく進めるため、遺伝子発現の改善による生産量を向上を試みた。その結果、条件発現型プロモーターを用いることでsafracin生産量が約10倍に向上することを明らかにした。 次に、safracin生合成遺伝子の改変によるET-743生産を目指して、骨格形成に関わるNRPS遺伝子sacBの改変と、ET-743生合成前駆体の供給に必要な遺伝子群の異種発現を試みた。各遺伝子はコドン最適化を施した合成DNAとして用意した。これらを用いて、まずsacB周辺約4 kbにわたる領域を正確に改変することに成功した。さらに、約4 kbおよび約8 kbにわたる遺伝子群を、条件発現型プロモーターに連結した人工遺伝子クラスターを調製した。次にこれらのベクターを様々な組み合わせでPseudomonasホスト株に導入した。しかし、生産される化合物を網羅的に分析したが、ET-743やその類縁化合物の生産を確認することはできなかった。この結果から、導入した個々の遺伝子の発現を詳細に調べて、多数の異種遺伝子発現を協調的に制御する必要があることが強く示唆された。
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