研究実績の概要 |
2021年度は、他の酵素によって形成された五員環をもつ基質のみを受け入れるチオエステル加水分解酵素ElbBの基質認識機構についての研究に注力した。2021年の初めに、他のグループからElbBのホモログ酵素DcsBの結晶構造が報告され(De-Wei Gao, et al. J. Am. Chem. Sci., 2021, 143, 80-84)、この構造をモデルに使った分子置換法によってElbBの結晶構造を決定した。ElbBの全体構造はDcsBとよく似ていたが、基質結合ポケットの周辺に違いが見られた。特に、DcsBがもつポケットの開口部がElbBでは芳香族性のアミノ酸残基によって塞がれており、ElbBのポケットは完全に閉じた形をしているという特徴が見られた。そのため、ElbBでは温度因子の高いαヘリックスが開閉するように動いて基質が出入りすると予想された。変異型ElbBの結晶構造ではこのαヘリックスがディスオーダーしている構造が得られ、このαヘリックスの可動性の高さが示唆された。また、今回は基質複合体の結晶構造が得られなかったため、ElbBと基質とのドッキングシミュレーションを行った。その結果、ポケット内のシステイン残基が基質の水酸基を認識し、疎水性残基が基質の五員環を認識するシミュレーション結果が得られた。これらの残基の重要性については変異型ElbBの活性測定による検証も進めている。 本研究では、ポリケタイド合成酵素の全長構造での構造解析は道半ばとなってしまったが、ポリケタイド合成酵素の1つのドメインであるチオエステル加水分解酵素の基質認識機構について新たな知見が得られた。
本研究で得られた成果については、日本結晶学会および日本農芸化学会にて発表を行った。
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