研究課題/領域番号 |
19K15749
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
慈幸 千真理 京都大学, 複合原子力科学研究所, 特別研究員(RPD) (70585976)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膜蛋白質複合体 / 精製 / 界面活性剤 |
研究実績の概要 |
本研究では、①ウシ心筋FoF1ATP合成酵素全体を安定化させる精製方法を確立して三次元結晶を製作し、その全長についてX線により構造解析し、②クライオ電子顕微鏡(クライオ電顕)を用いて単粒子構造解析を行い、加えて③本酵素の回転によって形成される種々のコンフォメーションで本酵素を精製し、クライオ電顕で構造を決定する。本研究の目的は、①~③の取り組みによって本酵素について原子レベルの高い分解能で構造を決定すること、及び動的立体構造変化を解明することである。本研究において最も重要なことは、安定で無傷な蛋白質の調製法の確立であり、この点において独自の手法の開発に取り組んできた結果、他の研究グループに先駆けて大きく前進している。 本酵素は、アフィニティカラムを使った精製方法が一般的であるが、我々はカラムを使わない遠心分離のみの精製方法を確立した。また本酵素は生体内ではオリゴマー(多量体)を形成しているが、精製したオリゴマーが時間の経過とともにモノマー、ダイマーになってしまう問題点があった。そこで我々は、界面活性剤をスクリーニングし、オリゴマーの形態を安定に維持する界面活性剤を決定した。 現在残された課題は、遠心分離に用いたショ糖を除去することである。特にクライオ電顕のグリッドを作製する際にショ糖の除去は必須である。また三次元結晶化のために本酵素を濃縮させるが、この際にもショ糖を除去しておかなければ、濃縮が進まない。このショ糖を除去する課題を解決したのち、構造解析のステップに移る予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
育児休業制度を利用したため、研究計画に遅れはあるが、精製困難であった本酵素の調製方法は着実に進歩したから。
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今後の研究の推進方策 |
密度勾配遠心分離法の分離能を向上させ、本酵素をIF1という細胞内の活性阻害蛋白質が結合した状態で分離できた。IF1との結合は、本酵素のATP合成を抑制する。つまり本酵素の回転を止めるために本酵素の構造を1つのコンフォメーションに固定し安定化させていると考えられ、三次元結晶化に好都合である。 現在、遠心分離に用いたショ糖を除去することが課題であるが、ショ糖を除去することで白濁する。これは溶解度の問題である可能性がある。よって添加する塩濃度と塩の種類を検討するが、塩濃度が高いとI F1が解離する。よって、I F1を解離させないでショ糖の除去する条件を検討する。 ショ糖を除去に成功後は、結晶化温度の検討、沈殿剤の種類・濃度、塩の種類・濃度、pH等の検討を行う。また結晶品質の向上には、添加物の検討、沈殿剤の濃度の最適化等を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
育児休業制度を利用したため次年度使用額が生じた。今後、精製に必要な試薬(特に界面活性剤)や、三次元結晶化のスクリーニングに必要な試薬等を購入するために使用する。
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