研究課題/領域番号 |
19K15760
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
古川 智宏 帝京大学, 理工学部, 研究員 (20826052)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アフラトキシン / Aspergillus flavus / Clpプロテアーゼ / ClpP アクティベーター / メタボローム解析 / 代謝シフト / 呼吸鎖複合体 |
研究実績の概要 |
アフラトキシンは一部のアスペルギルス属真菌が産生する強力な発がん性カビ毒であり、トウモロコシなどの農作物のアフラトキシン汚染のために、50億人近い人口が潜在的リスクに晒されている。農作物の汚染防除が肝要となるが、現在優れた防除策は存在しない。アフラトキシン産生制御機構の解明は、新規防除策の開発に寄与すると考えられる。研究実施者は、アフラトキシン産生阻害物質の作用機構を手掛かりに、アフラトキシン産生制御機構の解明を試みてきた。 これまでに、アフラトキシン産生阻害物質ジオクタチンがミトコンドリアのClpプロテアーゼに結合し、これを異常に活性化して呼吸鎖複合体のサブユニット等を選択的に分解することを見出しており、本年度はジオクタチン作用とアフラトキシン産生の関係性を更に調べる実験を実施した。まず、質量分析計により全代謝物質を同定・定量し、統計解析によりその変動を調べたところ、ジオクタチンによりミトコンドリアクエン酸回路の物質が減少する一方で、解糖系の代謝物質が増加することがわかった。遺伝子発現変動解析からは、ジオクタチンによりアフラトキシン生合成酵素遺伝子の発現が減少する一方、解糖系酵素遺伝子の発現が増加することが示された。また、これらの変化に伴って、遺伝子発現に関わるヒストン修飾が減少していた。以上から、Clpプロテアーゼの活性化によりミトコンドリアのエネルギー産生に必須のタンパク質が分解され、エネルギー代謝がクエン酸回路から解糖系へシフトするとともに、ヒストン修飾が変化しアフラトキシン生合成遺伝子の発現が減少、アフラトキシン産生が抑制されると考えられた。これらの結果は、ミトコンドリアの代謝はアフラトキシン産生を間接的に制御しており、それ故に汚染防除のための新たなターゲットとなりうることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の実験計画では、アフラトキシン産生真菌についてミトコンドリア呼吸鎖複合体IIの発現制御変異株を作製し、当該株を用いてアフラトキシン産生解析や全代謝物質の変動解析、遺伝子発現解析を行う予定であった。しかし、発現制御株作製のための遺伝子コンストラクトの調製に着手したが、正確な配列を有するコンストラクト作製が完了していない。一方で、ミトコンドリアのプロテアーゼを異常活性化するアフラトキシン産生阻害物質ジオクタチンに関して、CE-MSによる代謝物質変動解析、遺伝子発現解析および簡単なヒストン修飾解析を実施し、ミトコンドリアの機能とアフラトキシン産生の関係性について新規の知見を得ることができた。得られた結果を学術誌に投稿し査読中となっている。以上のことから、現時点でおおむね順調の進捗状況と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
市販のテトラサイクリン制御型発現ベクターに真菌用のプロモーターを組み込み、テトラサイクリン発現制御モジュールを調製する。これによりアフラトキシン産生菌を形質転換し、ミトコンドリア呼吸鎖複合体IIの発現制御株の作製を試みる。真菌では利用する菌株により遺伝子改変の成否が大きく変わるため、複数のアフラトキシン産生真菌を用い実験を行う。作製が完了次第、アフラトキシン産生能および代謝物質の変動解析、遺伝子発現解析を行う予定である。代謝物質の分析は、共同研究先への委託を考えているが、研究実施者所属機関の現有の質量分析計の利用も考慮する。 なお、本年度の研究途上で、新規作用機構の抗生物質として期待されている既知の細菌プロテアーゼ活性促進物質に強いアフラトキシン産生阻害活性を見出している。ジオクタチンはアフラトキシン産生菌のみならず細菌プロテアーゼの活性も促進することがわかっているため、その作用機構の類似性から、ジオクタチンにおいても抗生物質としての機能が窺われる。そこで、ジオクタチンの細菌増殖阻害活性等を調査し、有望であれば細菌プロテアーゼ-ジオクタチン複合体の結晶を調製し、X線による構造解析を試みる。ジオクタチンが広い抗菌スペクトルを有する場合、ジオクタチン骨格をもつ誘導体を合成展開し、新規抗生物質としての実用化を目指すことができる。
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