研究実績の概要 |
アフラトキシンは一部のアスペルギルスかびが農作物中に産生する強力な発がん性かび毒であり, アフラトキシンによる農作物汚染のため世界中で深刻な健康被害および経済被害がもたらされている. 本研究課題では, アフラトキシン汚染の防除策の開発へ貢献するため, アフラトキシン産生を増減させる物質の探索と, その作用メカニズムの解析により,アフラトキシン産生制御機構の解明を目指してきた. 最終年度は, 低分子アルコールの多くがアフラトキシン産生阻害活性を示す一方, エタノールは逆にアフラトキシン産生を増加させることを見出し, その作用を解析した. 安定同位体標識アルコールの添加実験により, エタノールがかびの細胞内でアセチルCoAに変換され, アフラトキシン生合成に取り込まれることを見出した. 質量分析データの確率統計モデルへの当てはめによって, エタノールによるアフラトキシン産生増加量は, エタノールのアフラトキシン生合成の炭素源として利用量と一致することがわかった. これは, アフラトキシン産生かびにおいてエタノール発酵・分解経路とアフラトキシン産生に代謝リンクが存在することを定量的に示した新規の知見である. 本研究課題では前年度までに, 作用機構未解明であったアフラトキシン産生阻害物質ジオクタチンが, ミトコンドリア内のプロテアーゼに結合してこれを異常に活性化し, ミトコンドリアの呼吸鎖複合体を分解してミトコンドリア代謝を抑制することでアフラトキシン産生を減少させることを見出している. 本研究の結果は, 炭素源の供給バランスによってアフラトキシン産生は制御されうることを示しており, 殺菌剤に依らない汚染防除策が可能であることを示している. これら炭素代謝のキーとなるアセチルCoA分子の細胞内動態の解析により, アフラトキシン産生開始に至るメカニズムが解明されうると考えられる.
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