研究課題/領域番号 |
19K15764
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 雄一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (70792729)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | oxysterol / 肥満 / 炎症 |
研究実績の概要 |
食習慣の欧米化による肥満に起因する糖尿病や動脈硬化などの循環器疾患、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)などの生活習慣病の罹患者増加は医療費増大に直結し、我が国においても大きな問題となっている。最近の研究から、酸化ステロールは炎症反応に関与することが示唆されている。本研究では肥満に伴う酸化ステロール増加メカニズムを明らかにし、脂肪組織や全身での慢性炎症との相関を明らかにするとともに、酸化ステロール代謝関連酵素発現調節を介した肥満に伴う炎症を予防・軽減化する機能性食品創製を目指す。 本年は肥満に伴うコレステロール及び酸化ステロール蓄積と肥満における慢性炎症との相関を解明するため以下の解析を行った。 1. コレステロール及び酸化ステロールの多くはおもに肝臓での代謝を受ける。そこでまず食餌性脂肪肝誘発マウスを作製し酸化ステロールの代謝分子基盤に焦点を当て、解析を試みた。総コレステロール蓄積やトリグリセリド蓄積が見られた脂肪蓄積肝臓において、炎症性サイトカインの発現とともに酸化ステロール代謝酵素の顕著な遺伝子発現変動が見られた。中でも、炎症誘発性酸化ステロールを基質とする代謝酵素は顕著に発現が低下しており、その発現低下はタンパク質レベルでも確認された。 2. 顕著な発現低下が見られた上記酸化ステロール代謝酵素の発現制御機構は未だ明らかにされていない。そこで、この発現低下のメカニズムを明らかにすることを目的とし、炎症性サイトカインの添加や酸化ストレス誘導、ERストレス誘導や脂肪酸添加など肥満に伴う応答を模した刺激を培養細胞に処理し、その時の遺伝子発現変動やタンパク質発現変動を解析した。その結果、酸化ストレス誘導及び脂肪酸添加により当該酵素の遺伝子発現が抑制されることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. コレステロール及び酸化ステロール代謝分子基盤変動;ステロール代謝の主要器官であることからまず肝臓に着目し解析を行ったところ、マウス脂肪蓄積肝臓においてステロール代謝酵素が顕著に遺伝子発現低下していることを見出した。この代謝酵素は炎症を誘発する酸化ステロールを基質とすることが知られており、同サンプルにおいてタンパク質レベルで発現が低下していることから、炎症性酸化ステロールの蓄積を引き起こし炎症惹起に寄与していることが予想された。 2. ステロール代謝酵素の発現低下メカニズム解析;見出したステロール代謝酵素の発現低下メカニズムを明らかにするため、まず肥満に伴う応答を模した種々の刺激を培養細胞に加え、ステロール代謝酵素の発現変動を解析した。その結果、酸化ストレス及び脂肪酸の添加によってステロール代謝酵素の発現低下が確認された。これらの結果から、肥満時の脂質蓄積並びにそれに伴う酸化ストレスによりステロール代謝酵素は発現低下することから、肥満において初期段階で発現低下が起こり始めていることが示唆された。本計画は二年次以降に行う予定であったが、計画に遅れの生じたノックアウトマウスを用いた実験と入れ替え本年度行った。 3. 組織特異的な中~長期発現を可能とするアデノ随伴ウイルス系を構築したことにより、脂肪蓄積肝臓で低下したステロール代謝酵素のレスキュー実験を行うことが可能となった。 4. GC/MSMSによる酸化ステロール測定系を構築し、肥満マウスにおける酸化ステロール蓄積が検証可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
導入したGC/MSMSを用いて、肥満誘発時に基質となる酸化ステロールの蓄積が生じているか検証する。食餌性の肥満における、当該酸化ステロール代謝酵素の経時的な発現変化を解析し、炎症応答との関連を検証する。また、今回構築したアデノ随伴ウイルス発現システムを用いステロール代謝酵素のレスキュー実験を行うことで、炎症応答等病態への影響を解析する。見出したステロール代謝酵素の全身性ノックアウトマウス並びに組織特異的ノックアウトを可能とするfloxマウスの戻し交配並びに繁殖を行い、肥満性の炎症応答との関連を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画より戻し交配及び繁殖が遅れノックアウトマウスでの実験に遅れが生じたため、次年度へと延期した。計画当初では二年次以降に行う予定であった発現低下メカニズム解析を初年度に行ったが、ノックアウトマウスを用いたin vivo実験に要する差額分を次年度へと繰り越した。
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