研究課題/領域番号 |
19K15766
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
毛利 晋輔 京都大学, 農学研究科, 研究員 (60836625)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 食品機能性成分 / メタボローム解析 |
研究実績の概要 |
生活習慣病を日常生活の中で予防・改善する観点から、食品の機能性に対する需要が高まっている。この食品の最たる特徴は、多彩な成分の含有であり、ここに食品機能性利用の発展性が秘められているが、現在の研究は、含有成分の一端に焦点があてられ、多彩な食品機能性成分の全体像については、ほとんど解明されていない。その主因は、食品中の膨大な成分の機能性を網羅的に評価できないことにあった。本研究では、メタボローム解析により取得した成分データを化合物ライブラリーとして使用することで、食品中の成分を機能性ベースで網羅的に評価できる新規システムを構築し、食品機能性成分の全体像を解明することを主目的とする。 本研究は、食品分画物における機能性評価、メタボローム解析による食品成分データの取得、上記機能性評価及び成分データの融合、以上3工程に大別される。本年度は、食品分画物における機能性評価まで完了した。糖代謝異常の予防・改善に寄与しうる複数の作用点に着目し、タンパク質リン酸化等、各作用点における関連シグナル検出が可能な培養細胞評価系を作製した。作製した各種評価系を用いて、様々な食品抽出物のスクリーニングを行うことにより、各作用点を介して機能性を発揮しうる複数の食品を見出した。さらに、機能性を呈した上記食品抽出物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分画し、得られた全画分において、同様の培養細胞系による機能性評価を行うことにより、食品由来全画分について機能性の有無を明らかにした。 今後、機能性を呈した食品について、メタボローム解析により網羅的成分データを取得し、化合物ライブラリーを作製する。また、作製したライブラリーと本年度に見出した食品全画物における機能性の有無を組み合わせることにより、機能性ベースの網羅的食品成分評価システムの完成とともに、機能性成分の全体像を解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、初年度までに、機能性ベースの網羅的な食品成分評価システムの構築及び機能性成分全体像の解明までを完了させる計画であった。しかしながら、上記計画は、ひとつの作用点に関する機能性に着目して行うことを念頭において立てられたものである。一方で、本年度の研究は、糖代謝異常の予防・改善に寄与しうる複数の作用点について構築された各種培養細胞評価系を用いることで、複数の機能性に着目して進められている。本研究は、これまでにない新規システムの構築を主眼としたものであり、研究の性質上、その信頼性・実用性を立証することが極めて重要である。つまり、単一の機能性だけでなく、複数の機能性において、構築した新規システムによる網羅的な食品成分評価を行うことで、信頼性・実用性がより担保されると考え、当初の計画を一部修正した。以上のような理由から、現在までの進捗状況として、遅れが生じているが、研究の質という面では、当初の計画よりも向上していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、機能性を見出した食品についてメタボローム解析を行い、網羅的な成分データの取得により化合物ライブラリーを作製する。具体的には、質量分析機(LC-MS)による成分の超精密質量の測定、解析ソフトによる測定データ解析(組成式・ピーク強度・溶出時間等)、代謝物データベース(KEGG・LIPID MAPS等)による成分特定を行う。作製したライブラリーと本年度に見出した食品由来全画物の機能性評価結果を組み合わせることにより、機能性ベースの網羅的食品成分評価システムの完成とともに、機能性成分の全体像を解明する。また、その機能性成分全体像を踏まえ、特に重要だと考えられる成分について、標品を用いた培養細胞・実験動物による詳細な機能性評価を行うことにより、同定成分の確固たる機能性を示し、新規システムの信頼性を立証する。他方、構築した新規システムを応用することにより、現実の食に即した機能性成分についても検討を行う。具体的には、食品ではなく食事・料理における機能性成分として、複数食品混在や加熱等の条件下における機能性成分全体像を解明し、食品から食事・料理への変化によって、新たに産生される機能性成分、食品から維持される機能性成分、食品から消失する機能性成分の提示を試みる。 また、以上の研究で得られた知見について、学術論文や学会等で発表することにより、社会への還元を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
メタボローム解析による食品成分特定、標品を用いた化合物同定及び機能性評価に関する実験・分析・解析費用が次年度以降にずれ込んだ。また、それに伴い、学術論文作成に関する費用(英文校正等)や学会発表に関する費用(出張費等)についても次年度以降にずれ込んだ。以上2点が次年度使用額が生じた主な理由である。 一方、翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画として、まずは、本年度に機能性を見出した食品について、メタボローム解析等の次年度以降にずれ込んだ上記研究を行い、新規評価システム完成と食品機能性成分の全体像の解明を行う。続いて、その全体像から、当該食品に含有する機能性成分の中で特に重要と考えられる成分については、標品を用いて動物個体レベルでの機能性評価を行い、構築した新規システムの信頼性を立証する。また、構築したシステムを応用し、より現実の食に即した機能性成分の解明を試みる。つまり、複数食品混在及び加熱等の条件下、料理・食事における機能性成分の全体像を明らかにし、実際に食として摂取している機能性成分の提示を目指す。
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