研究課題/領域番号 |
19K15775
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
石橋 賢一 帝京大学, 薬学部, 助教 (00707458)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | トランス脂肪酸 / 飽和脂肪酸 / インスリンシグナル / Akt / リン脂質分子種 |
研究実績の概要 |
食品加工の過程で生成される人工のトランス脂肪酸を多く摂取すると、立体構造が類似する天然の飽和脂肪酸を多く摂取した時のように疾患の発症リスクが高まる。研究代表者は、これまでの脂肪細胞を用いた解析から、人工のトランス脂肪酸であるエライジン酸は、飽和脂肪酸 (ステアリン酸) と同様にインスリンに応答した糖の取り込みを抑制するが、それはステアリン酸と異なる機序で起こり、糖の取り込みに関わるAktが細胞膜に集積しにくいことが一因である可能性を示唆した。さらに、エライジン酸が細胞膜を構成するリン脂質に取り込まれることや、いくつかのリン脂質分子種の量を変化させることを明らかにした。そこで本研究では、細胞膜でのリン脂質の変化に着目し、人工のトランス脂肪酸が起こす細胞機能の障害に関わる因子を明らかにすることを目的とした。 2019年度では、細胞膜でのリン脂質の変化とAktの集積低下との関係の解明に向けて、細胞膜の中でもAktの活性化が起こる領域でリン脂質の量が変化しているのかを調べた。まず、ショ糖密度勾配遠心法でAktが集積する膜領域の分離を試みたところ、インスリン刺激によってAktが集積し、リン酸化が起こる膜領域を含む画分を得た。エライジン酸の存在下で分化誘導した脂肪細胞では、この画分へのAktの集積が抑制されていた。そこで、含まれるリン脂質を解析したところ、この画分にはエライジン酸を含むリン脂質が他の画分より多く存在していることや、いくつかのリン脂質の含有量が変化していることが明らかになった。また、膜リン脂質の変化に関わる分子を絞り込むために、マイクロアレイ解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度では、Aktが活性化する膜領域でのリン脂質の変化を見出すことを計画していた。当初の予定通りに、Aktが活性化する膜領域を含む画分をショ糖密度勾配遠心法で分離し、その画分には他の画分よりもエライジン酸を含むリン脂質が多く存在することや、その他のリン脂質の含有量が変化していること見出せたことから、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度では、Aktの細胞膜への集積低下と、Aktが集積する膜領域のリン脂質の変化との因果関係を明らかにする。そのために、エライジン酸を含むリン脂質を化学合成し、細胞膜へと取り込ませ、Aktの細胞膜への集積に対する影響を調べる。エライジン酸を含むリン脂質の化学合成法は確立し、細胞膜へと取り込ませる検討をすでに行っている。また、マイクロアレイ解析の結果から、エライジン酸の存在下で分化誘導した脂肪細胞では、どのような分子の発現量が変化することで、膜リン脂質の変化が生じているのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
日本薬学会第140年会への出張旅費として使用する予定であったが、新型コロナウイルスの影響により紙面開催となったため使用しなかった。2020年度の予算と合わせ、試薬や機器の購入に使用する予定である。
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