研究課題
高い抗酸化作用を有するカロテノイド類は、植物や微生物から溶媒抽出により得られる。その利用価値は極めて高いが、カロテノイド(トランス型)の溶媒への溶解度が低いため、天然から効率よく入手できないことが課題となっている。本研究は、カロテノイドを効率的にシス異性化させる新規化学変換技術を開発し、物性改変による溶解度特性の改善によって、天然資源からのカロテノイド素材を効率的に製造する基盤技術を確立する。本年度は、可食性の植物より、カロテノイドの異性化を効率的に促進できる触媒成分の探索を行った。まず、約150種類の食材をそれぞれトマトと混合し、加熱処理を行った。その結果、タマネギやニンニクなどの Allium 属や、ケイパーやキャベツなどの Brassica 属の野菜に加え、シイタケやマコンブなどの食材がトマト中リコピンのシス異性化を促進することを見出した。Allium 属の野菜とシイタケは共通してポリスルフィド類を含み、Brassica 属の野菜は共通してイソチオシアネート類を豊富に含む。また、マコンブはヨウ素を豊富に含む。よって、異性化を促進する食材に共通して含まれる上記成分が、異性化を促進する触媒作用を示したと考え、ポリスルフィド類、イソチオシアネート類、ヨウ素の標準品をトマトペーストに添加して加熱処理を行った。その結果、いずれを添加した場合もリコピンのシス異性化が顕著に促進されることを見出した。続いて、カロテノイドの抽出工程に上記天然触媒を添加し、抽出と同時に異性化を行うことを検討した。カロテノイドはシス型に異性化すると溶媒への溶解度が飛躍的に向上するため、抽出効率の改善が期待できる。乾燥菌体よりアスタキサンチンを抽出する際、抽出液にイソチオシアネート類とポリスルフィド類を加えると、アスタキサンチンの回収率が有意に改善し、そのシス型比率も向上することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
カロテノイドの異性化を促進する天然触媒を複数見出すことができ、それらの異性化特性を把握することができた。さらに、上記触媒を用いて、カロテノイドの抽出効率を改善できることを示した。これらの成果は、Sci. Rep. (9, 7979, 2019) や J. Agric. Food Chem. (68, 3228-3237, 2020) などに掲載された。また、本成果に関する4件の特許出願を行った。
シス型のリコピンやアスタキサンチンは体内吸収性や抗酸化作用が高いことが示されている。よって、カロテノイドの抽出後もシス型を保持することが望ましい。しかし、シス型のカロテノイドは保管安定性が低く、時間と共にトランス型に戻ってしまう。よって、本年度は、シス型カロテノイド素材の社会実装に向け、その保管安定性を向上するための取り組みを中心に推進する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 1件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 産業財産権 (4件)
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