本研究は、染色体分配機構を標的にして制がん効果を発揮する食品成分の同定とその作用機序の解明を目的としている。昨年度までの研究で、食品成分ベンジルイソチオシアネート(BITC)の細胞増殖抑制作用および染色体分配の異常誘導作用が、染色体不安定性(CIN)により増強される傾向にあることを明らかにしており、CIN 細胞と非CIN 細胞において、BITCが染色体分配機構に与える影響の違いが細胞増殖抑制効果の違いに関与している可能性が示された。今年度は、BITCのCIN細胞選択的な細胞増殖抑制作用について、よりクリアなデータを得るために、BITCの処理時間を当初の24時間から48時間に変更し、MTT assayにより評価を行った。その結果、BITCによる細胞増殖抑制作用は、5 μMから25 μMの濃度範囲において、非CIN細胞(hTERT-RPE1、TIG-1、HCT-116)よりもCIN細胞(HeLa、SW480)で顕著かつ有意に増強された。さらに、BITCの異数性誘導作用を検討するために、HCT-116もしくはHeLaにBITCを24時間処理し、in vitro小核試験を実施した。その結果、HCT-116において、コントロール群では小核は検出されず、5 μM BITC処理群では1.9%の細胞で検出されたが、10 μM処理群では検出されなかった。一方、HeLaにおいて、コントロール群では8.4%、5 μM BITC処理群では1.3%の細胞で小核が検出され、10 μM処理群では検出されなかった。以上の結果から、本研究では、染色体分配異常の誘導を伴って制がん効果を発揮する食品成分としてBITCを同定し、CINの性質を有する細胞において、その効果が強まることを明らかにした。さらに、BITCはCIN細胞の異数性を減少させる一方で、非CIN細胞の異数性を僅かながらも増加させる可能性のあることが示された。
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