本研究では、河内晩柑果皮水溶性抽出物およびその活性物質の一つであるシネフリンの生体内外における抗炎症効果とその作用機構の解明を目的としている。これまでの検討により、シネフリンが細胞内シグナル分子であるp38MAPKのリン酸化およびNF-κBの核内移行を下方制御することで炎症性サイトカイン産生を抑制することが明らかになっている。そこで本年度は、シネフリンがどのようにシグナル分子の活性化に影響を与えているのか、その作用メカニズムの解明に取り組み、下記に示す成果を得た。 シネフリンは化学的および生物学的性状がエフェドリンに類似しており、アドレナリン受容体アゴニストとして作用することが示唆されている。そこで、フェントラミン(非選択的αアドレナリン受容体拮抗薬)あるいはプロプラノロール(非選択的βアドレナリン受容体拮抗薬)でマウスマクロファージ細胞株RAW264.7細胞を処理した30分後に、シネフリンあるいはエピネフリン(アドレナリン受容体作動薬)を添加し、24時間培養した後のIL-6およびTNF-αの産生量を酵素抗体法により検討した。アドレナリン受容体作動薬であるエピネフリンは、シネフリン同様にLPS誘導性の炎症性サイトカイン産生を有意に抑制し、その抑制効果はプロプラノロールの前処理により低下した。一方、フェントラミンでは影響は見られなかった。エピネフリンはαおよびβ受容体共通の作動薬のため、αアドレナリン受容体への結合は活性に関与しないことが示唆された。また、シネフリンの炎症性サイトカイン産生抑制効果は、プロプラノロールの前処理により有意に低下したが、フェントラミンの前処理による活性への影響は認められなかった。これらのことから、シネフリンはβアドレナリン受容体を介して、マクロファージのLPS誘導性炎症性サイトカイン産生を阻害することが明らかになった。
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