本研究の目的は、空間分解能および観察視野の異なる2つのX線CT装置で取得した画像情報から、これまで不可能であった青果物内部の諸物性値分布を直接計測可能とすることである。微細スケールで取得したCT画像情報と諸物性値を関連付け、これを個体レベル画像情報に反映、互いのスケール間で情報を生かし合うことにより、ノーマル分解能X線CT画像から空隙率や熱伝導率、水分等の果実内分布を個体レベルで、リアルタイムに同時推定できるようになる。 本研究は(1)マルチスケールX線CT観察画像の取得、(2)マルチスライス画像からの3次元微細構造モデル再構築、(3)微細構造モデルシミュレーションによる局所物性値の推算とCT値との関連付け、(4)青果物内部の物性値分布の可視化の4つの中課題で構成される。(1)では、分解能の異なる2種類のX線CT装置を用いて、カキおよびナシ果実の①細胞組織および②果実全体スケールで連続スライス画像を取得し、部位ごと、貯蔵期間ごとの構造特性を明らかにした。続いて(2)では、マルチスライス画像をスライス厚さ方向に積み重ねてつなぎ合わせ、3次元立体構造モデルを再構築した。また、画像解析により空隙率を抽出し、CT値との関係を明らかにした。その後、解析条件を与え、ソルバー(COMSOL Multiphysics 5.3)を用いて熱移動解析およびガス移動解析を行った(3)。細胞組織は不均質な構造を持つため、計算領域を均質と仮定した材料についても解析を行い、不均質材料で得た計算結果と比較し、微小領域平均の物性値として求め、空隙率などの構造的特徴量と各物性値との関係を明らかにするとともに、CT値と空隙率、空隙率と熱伝導率およびガス拡散係数との関係を定量した。最後に、得られた関係式をノーマル分解能X線CT画像に適用し、青果物内部の物性値分布の可視化を行った(4)。
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