研究課題/領域番号 |
19K15792
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
寺田 祐子 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 助教 (80767632)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 皮膚線維芽細胞 / 化学感覚受容体 / 皮膚老化抑制 / コラーゲン / 味覚受容体 / 嗅覚受容体 / TRPチャネル |
研究実績の概要 |
高齢化社会の到来に伴い、見た目を若々しく保ちたいという“外面のアンチエイジング”への需要が高まっている。伝統的に皮膚老化抑制効果があるとされる食品は数多く存在するものの、いずれも有効性や作用メカニズムなどの科学的根拠が不足しているのが現状である。近年、口や鼻で食品の味・香り物質の受容を担う化学感覚受容体(温度感受性TRPチャネル・味覚受容体・嗅覚受容体)が、皮膚細胞にも発現することが明らかとなりつつある。本研究の目的は、線維芽細胞の化学感覚受容体に作用する食品成分について皮膚老化抑制効果を検証し、さらにその分子機構を明らかとすることである。 はじめにreal-time RT-PCR法により、皮膚線維芽細胞における化学感覚受容体425種 (味覚受容体25種、嗅覚受容体374種、TRPチャネル25種) の発現を網羅的に解析した。その結果、味覚受容体2種、嗅覚受容体5種、TRPチャネル6種のmRNAが高レベルに発現していた。次に、それら化学感覚受容体に対する食品・天然リガンドを、受容体異所発現細胞を用いて探索した。TRPA1アゴニストとして柑橘の精油からリモネンやカルボンを、CaSRアゴニストとして鶏卵タンパク質リゾチウムおよび、大豆発酵食品などに含まれるγ-グルタミルペプチド類を見出し、論文として発表した。続いて、食品リガンドによる皮膚老化抑制効果を線維芽細胞を用いて解析した。その結果、嗅覚受容体OR1A1アゴニストであるゲラニオールが、コラーゲン遺伝子およびタンパク質の発現を増加させることを明らかにした。その作用は、OR1A1のsiRNAノックダウンにより有意に減少した。これらの結果から、皮膚に発現するヒト嗅覚受容体OR1A1が香り成分の受容によってコラーゲンの産生を調節することが示唆された。本成果から、香り成分を活用する新たな機能性食品、化粧品、薬剤等への応用が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画で、一年目の研究内容として、1)皮膚線維芽細胞における化学感覚受容体425種の発現プロファイルの解析、2)化学感覚受容体に対する食品・天然リガンドの探索、3)食品由来のリガンドによる皮膚老化抑制効果の検討 を予定しており、これらを遂行できた。化学感覚受容体に対する新規の食品・天然リガンドを多数見出し、これらの成果を3報の英語論文として発表した [Biosci Biotechnol Biochem, 2019] [Biochem Biophys Res Commun, 2020] [Biosci Biotechnol Biochem, in press] 。さらに、当初は二年目に計画していた、化学感覚受容体を介した皮膚老化抑制の分子機構の解明にも着手し、嗅覚受容体OR1A1のsiRNAノックダウンにより、ゲラニオールの皮膚コラーゲン増加効果が減少することを明らかにした。上記の研究成果が得られたことから、当初の計画以上に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
二年目は、皮膚線維芽細胞におけるゲラニオールのコラーゲン増加の分子機構の解明を行う。一年目の遺伝子ノックアウト実験から、ゲラニオールは嗅覚受容体OR1A1を介して皮膚コラーゲン量を増加させることが示唆された。皮膚のコラーゲン量は合成と分解のバランスで制御され、コラーゲン合成促進系としてIGF-Iシグナル系とTGF-β/smadシグナル系が、コラーゲン分解促進系としてMAPキナーゼを介したコラーゲン分解酵素MMP1の発現誘導が報告されている。ゲラニオールはOR1A1を介して既知のシグナル経路を調節するのか、新規のシグナル経路を介して老化抑制効果を示すのかを、分子生物学的手法(qPCR、western blot、遺伝子ノックダウン)を用いて明らかにする。
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