研究課題
発酵生産は生育に必要なエネルギーを目的の有用物質の代謝に活用するため、目的物質の生産性が増加するに伴い、生育遅延がしばしば起こる。従って、目的物質の生産性の向上は、細胞の生育と生産性のバランスを上手く維持しながら、これまで進められてきた。しかし、細胞が有するエネルギーの総量が決まっているため、従来の代謝工学を活用した方法には限界がきている。最近、研究代表者らは、活性イオウ分子:システインパースルフィド(CysSSH)がシステイニルtRNA合成酵素によって生合成されることを報告した(cysteine persulfide synthase:CPERSと命名)。さらに、哺乳類において、新規なエネルギー代謝である「イオウ呼吸」の存在を発見した。イオウ呼吸は電子伝達系において、イオウ代謝物(CysSSH)が酸素の代わりに働き、さらに副次的に生成する硫化水素がsulfide-quine reductase(SQR)を介してNADHの代わりに膜電位形成に寄与する新規なエネルギー代謝である。本研究では酵母におけるイオウ呼吸の解析を通して、「イオウ呼吸エネルギー代謝理論」を確立することで、発酵生産を飛躍的に改良する手段を提唱することを目的とした。前年度、SQRのホモログ遺伝子を破壊した場合、ミトコンドリアのエネルギー代謝不全が起こることが判明し、酵母にもイオウ呼吸が存在することが示唆された。本年度はイオウ呼吸の電子授与体であるCysSSHの合成経路を解析した。その結果、酵母も哺乳類と同様にCPERSホモログであるCrs1依存的にCysSSHが合成されることがわかった。また、CRS1変異体はミトコンドリアのエネルギー代謝不全が見られ、細胞内ATP含量の低下が認められた。以上より、酵母においてもCPERSやSQR依存的なエネルギー代謝が存在することが考えられた。
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