研究課題/領域番号 |
19K15807
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 賢一 京都大学, 生命科学研究科, 研究員 (70816884)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | mRNA輸送体 / 構造解析 / インフォマティクス解析 |
研究実績の概要 |
ヒトの遺伝子発現において選択的なmRNAの核外輸送機構は、高次な遺伝子発現制御の一翼を担う。ヒトにおいて非常に高い相同性を持つmRNA核外輸送体UAP56とURH49は、異なる複合体を形成して選択的なmRNAの輸送に機能する。申請者はこれまでにUAP56とURH49の、複合体形成の制御機構と、mRNA認識機構の一端を明らかにした。これらに加え、UAP56ならびにURH49の複合体形成に重要な構造差異と、両者のmRNA認識機構を解析することで、ヒトにおける選択的mRNA認識の分子機構解明を目的とする。今年度はUAP56とURH49、ならびに複合体形成に重要な領域を入れ替えた変異体の構造解析を行い、複合体形成機構の解明に迫りつつある。mRNA認識の分子機構においてはUAP56とURH49がスプライシングの段階から機能することを明らかにし、mRNA認識における重要な手掛りを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.構造解析によるUAP56とURH49の複合体制御機構の解明 これまでのUAP56とURH49の結晶構造解析から、各ドメイン構造は相似であるが、両ドメインを結ぶリンカーの構造と各ドメイン配置に違いが観察された。過去に同定した両者の複合体形成制御領域の違いが、上記のUAP56とURH49の立体構造差異を規定するか検証するために、結晶構造解析よりも容易にタンパク質の立体構造を解析できるSAXS解析法を導入した。この結果、結晶構造と同様にUAP56とURH49における構造差異を観察した。続いて複合体形成制御領域を置換した変異体の解析を行い、複合体形成制御領域をUAP56型に置換したURH49変異体はUAP56型の立体構造を、URH49型に置換したUAP56変異体はURH49型の立体構造をとることを見出した。 2.UAP56とURH49による選択的mRNA認識機構の解明 これまでに標的タンパク質の結合RNA配列を高精度に同定できるPAR-CLIP解析によりUAP56とURH49の結合RNA配列の情報を得ている。当初はUAP56とURH49が選択的に輸送するmRNA群において、両者の結合パターンが遺伝子全体で大きく異なることを期待していたが、情報解析の結果、遺伝子レベルでは大きな結合パターンの違いは見出せなかった。そこでUAP56とURH49がそれぞれ異なるスプライシング部位の制御に働くのではないかと仮説をたてた。これを検証すべく、UAP56とURH49のノックダウン細胞におけるスプライシング異常を次世代シークエンスによって解析し、UAP56とURH49がゲノムワイドに異なる領域のスプライシング制御に働くことを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
1.構造解析によるUAP56とURH49の複合体制御機構の解明 解析対象に相同なタンパク質の結晶構造情報を元にして、SAXS測定データに合うように立体構造をモデリングすることで、SAXS測定データから立体構造情報を解析できる。既に得ているUAP56、URH49の結晶構造情報を元にして複合体形成制御領域を置換した変異体のSAXS測定データの立体構造解析を行っていくことで、複合体形成制御領域が両者の立体構造差異にどのように重要であるかを明らかにする。 2.UAP56とURH49による選択的mRNA認識機構の解明 今回の研究で明らかにした、UAP56とURH49による選択的スプライシング制御の分子機構を明らかにするため、これらの領域において両者の結合パターンに違いが存在するのかを検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、今年度中にPAR-CLIP解析結果を元にしてミニジーンを作成し、細胞内での挙動を観察することにより、UAP56とURH49の選択的mRNA輸送機構の検証を行う予定であり、その分の予算を申請していた。しかしPAR-CLIPのインフォマティクス解析の進展から、大きく研究計画を変更し、元々予定していた解析費用を使用しなかったため次年度使用額が生じた。一方でUAP56とURH49がゲノムワイドに異なる領域のスプライシング制御に働くことを新たに見出した。この現象について細胞内で多くの実験を行い検証することが必要であるため、次年度使用額と翌年度分として請求した助成金を合わせて使用する予定である。
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