本研究課題は、テラヘルツ(THz)周波数帯の光による生命機能制御を目的とした。具体的には、将来的なTHz光技術の医療応用を想定し、基盤技術の確立を目指した。2019年度までの研究では、THz光照射による精製タンパク質の構造操作に成功した。そこで2020年度は、生きた細胞内にあるタンパク質構造の操作を課題として設定し、THz光による細胞機能制御の可能性を探求した。ジャイロトロンを光源とした0.5 THzの光照射により、水溶液中に存在するアクチンタンパク質の繊維形成を促進させることに成功した。そこで次に、THz光照射による生きた細胞内のアクチン繊維、また高分子操作の可能性探索に取り組んだ。結果として、バルクのアクチン溶液と同様に、細胞内のアクチン繊維形成もTHz光照射によって促進されることを発見した。さらに、増加したアクチン繊維は細胞の遊走に必須となる仮足構造を細胞内に形成することも明らかにした。高分子操作の可能性が示されている周波数0.5THzに加え、より高周波数である4THzの光照射によるタンパク質、細胞への影響解析も解析した。実験系が確立されているアクチンを利用しTHz照射実験を行った結果、4THzではアクチンの繊維が切断されることが明らかになった。さらに、4THzの光照射によるアクチン繊維の切断現象は、生きた細胞内でも再現を示した。アクチンは様々な生命現象に寄与する。そのため、本研究はTHz光照射によるアクチン繊維構造操作を介した細胞機能制御の可能性を示している。
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