研究課題
イネ、コムギ、トウモロコシをはじめとするイネ科作物の茎は節と節間から構成されている。植物ホルモンの1つであるジベレリン(GA)が、節間の細胞分裂と、その後の細胞伸長を促進することで、節間を伸長させることが知られていたが、分子レベルでの詳細な仕組みについては明らかとなっていなかった。また、節間伸長の開始時期を制御する因子の存在は約50年前に提唱されていたが、その実態についても未解明のままでであった。本課題において、遺伝学的手法を用いて、イネの節間においてGA応答性を制御する因子を探索した結果、節間伸長を促進する遺伝子ACCELERATOR OF INTERNODE ELONGATION1 (ACE1)と、抑制する遺伝子DECELERATOR OF INTERNODE ELONGATION1 (DEC1)を発見した。これらの因子は浮イネにおいて節間の介在分裂組織の分裂活性に対して拮抗的な作用を持っており、ジベレリンによる両遺伝子の相反する発現制御(伸長時にACE1の発現上昇およびDEC1の発現低下)によって浮イネは急激な節間伸長を誘導することを明らかにした。一方、一般的なイネではACE1に突然変異が生じており、またGAによるDEC1遺伝子発現の低下も起こらないために、栄養成長期に節間伸長を誘導できないと考えられた。しかし、一般的なイネも成熟期になるとACE1遺伝子のホモログであるACE1-like1の発現が上昇し、またDEC1遺伝子の発現の低下が起こることで節間伸長を誘導しました。これらの結果は、ACE1遺伝子とDEC1遺伝子こそが長い間、謎であった節間伸長の開始時期を決定する因子であることを示唆しており、これらの発見はイネの節間伸長の開始制御において新たな知見を与えるものであると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当初、想定していた計画通りに研究を進めることができ、本研究において発見した相反する作用を示す2つの因子によって、茎(節間)の伸長を促進するジベレリンと、イネの節間伸長の開始メカニズムの関係を世界に先駆けて明らかにすることができた。また、浮イネという特殊なイネや野生イネを含めて、「イネ」という植物が持っている多様性に着目して研究を行うことが、未だ明らかにされていない生物学的現象のメカニズムを解く鍵となることを示すことができた。
これまでに明らかにしたACE1とDEC1が制御する分子メカニズムについては不明な点が多く残されている。今後は、それぞれの因子が制御する分子メカニズムを明らかにしていくことで、未だ分子レベルでの制御機構が十分に理解されていない介在分裂組織の実態について明らかにしていく。ACE1は機能未知の低分子タンパク質をコードしていることから、相互作用因子が存在している可能性が考えられる。そこで今後はyeast two hybrid screeningを行うことでACE1の相互作用因子の探索を行い、これら因子とACE1の関係、および介在分裂組織に対する機能を明らかにしていく。またDEC1は転写因子をコードしていることから、DEC1遺伝子が制御する下流遺伝子の探索をin vitro実験系によって明らかにしていく。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
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