研究課題
世界の主要穀物であるイネ、コムギ、トウモロコシは全てイネ科植物に属しており、共通した構造によって茎(節間)が形成されている。イネ科作物の節間は倒伏性の観点から短稈化が行われてきた一方、浮イネと呼ばれるイネは洪水環境において節間を急激に伸長させることで洪水時にも生存が可能であったり、サトウキビは伸長した節間が収穫部位になるなど、節間の用途や機能は多岐にわたる。イネ科作物の節間の伸長は、細胞分裂帯である介在分裂組織における細胞分裂とその後の細胞伸長によって誘導されることが報告されているが、介在分裂組織の発達過程や分子機構に関しては不明な点が多い。そこで令和2年度は介在分裂組織の発達過程を明らかにすることを目的として、細胞分裂の指標となる遺伝子のプロモーターに蛍光タンパク質を融合することによって、介在分裂組織における細胞分裂の可視化を行なった。また、介在分裂組織において分裂を制御する因子の同定を目的とし、顕著な節間伸長性を示す浮イネC9285を用いた遺伝子発現解析を行なった。その結果、茎頂分裂組織において幹細胞の維持に関わるWUSCHELの相同遺伝子群のうち7つの遺伝子が伸長節間の介在分裂組織において発現していることを見出した。現在はこれらの遺伝子を節間介在分裂組織の制御候補因子と想定し、節間における詳細な発現部位を蛍光タンパク質を用いて解析するとともに、CRISPR/Cas9システムにより変異体を作出することで機能解析を行なっている。本研究で得られる知見はイネ科作物の節間伸長制御の理解につながることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
令和元年には、植物の茎葉伸長を促進する植物ホルモンであるジベレリンに応答したイネの節間伸長を制御する2つの因子を同定し、ACCELERATOR OF INTERNODE ELONGATION1 (ACE1)と、DECELERATOR OF INTERNODE ELONGATION1 (DEC1)と命名した。その後、機能解析を進めそれぞれの作用機序を明らかにできた。さらに介在分裂組織の活性制御機構の解明についての研究においてもすでに複数の候補遺伝子を同定しており、現在ではこれらの因子の機構解析を行なっている。
節間の介在分裂組織の発達過程において分裂細胞の可視化して経時的変化を明らかにした例はないため、本研究でこれまで行なってきた、細胞分裂の指標となる遺伝子のプロモーターに蛍光タンパク質を融合することで介在分裂組織を可視化した研究成果を論文としてまとめる。また、介在分裂組織において発現する遺伝子の探索を行ない、複数の候補遺伝子を検出している。令和3年度は、これらの遺伝子の詳細な発現場所の解析を行うとともに、CRISPR/Cas9システムにより変異体を作出することで機能解析を行う。また、これらの候補遺伝子は転写因子であるため、機能解析によって介在分裂組織の活性化に関与することが明らかとなれば下流遺伝子の探索を行う。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件)
Metabolites
巻: 10 ページ: 68~68
10.3390/metabo10020068
Nature
巻: 584 ページ: 109~114
10.1038/s41586-020-2501-8
Journal of international cooperation for agricultural development
巻: 18 ページ: 18~28