植物育種では、様々な変異を持つ親を交配し両親よりも優れた子供を作り出す方法がある。一般的に、種を超えての交配は様々な形質を持つ子供を作る事ができ、魅力的な方法である。しかし、遠縁の種を交配に用いた場合、雑種初期胚から片親の染色体が選択的に排除される、染色体脱落現象が報告されている。本年度も前年度と同様に、コムギ、エンバクを実験圃場で栽培し、ペニセタム属10種と交雑した。開花時期の調節や穂培養の最適化を行い交雑のタイミングを最適化した。交雑7日後の未熟種子を一交雑あたり200ほど獲得し、さらに固定した。前年度に保存したサンプルをFISH、GISI法によって染色体脱落の程度を観察した結果、交雑したペニセタム属植物の種によって染色体脱落の程度が異なる事がわかった。つまり、染色体脱落は雄側の因子によっても制御されている事を明らかにした。さらに、染色体脱落の時期を特定する目的で受精後極初期の小花も大量に固定し、観察するした結果、どうやら染色体脱落は極初期の特定の細胞分裂の際に急激に起こっている事がわかった。これまでの報告とは異なり、本研究で観察された染色体脱落の時期は受精卵の第1回目の分裂ではない。今回の結果は最終的には脱落してしまうゲノムであっても少なくとも1回は維持されている事を証明した。つまり、ゲノムの複製、動原体機能の獲得など亜科を隔てた種であっても最初は機能している事を示した。本研究の遂行により基礎的で非常に重要な知見を数多く得る事が出来た。
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