パンコムギ(Triticum aestivum)実験標準系統Chinese Spring(以下CSと表記)を核親とした核細胞質置換雑種系統(以下,NC雑種系統と表記)から,CSと異なる冠水ストレス耐性レベルを示す系統を対象とし,幼苗期に冠水ストレスを与えた個体と冠水ストレスを与えない個体からそれぞれRNAを抽出し,RNA-seq解析を行った。 RNA-seqによって得られたシーケンス情報はCSレファレンスゲノム配列情報(IWGSC RefSec v2.1)にマッピングを行った。マッピングの結果は良好で95%以上の配列が参照配列上にマッピングされていることを確認した。参照配列上にマッピングされた配列情報のアノテーションを行い,CSとNC雑種で幼苗期の冠水ストレスの有無によって発現量が変化している遺伝子を抽出することができた。 また,NBRP・コムギ6倍体コアコレクション系統を対象とした冠水ストレス応答性の生物検定を昨年度から対象系統を広げて行った。冠水ストレスの検定法は従来通り,水中で十分に吸水させた種子(2日間)を用いていたが、本年度に調査対象とした一部の系統では水中での吸水では発芽率が極端に低下した(~25%)。これらの系統は湿らせたろ紙の上で吸水させた場合は発芽率に問題がなかったこと(85%~)から、低発芽率は使用した種子ではなく吸水法、つまり幼苗期ではなく、発芽時の冠水に極端に弱い系統であることが明らかになった。また,これらの発芽時の冠水に弱い系統の中には,発芽できた個体に冠水ストレスを与えても生育阻害は確認できない系統が存在した。本研究で用いた生物検定法はCSを用いて最適化したもの(Takenaka et al. 2018)であったが対象系統を拡大した結果,冠水ストレスの与え方を再検討べきであること明らかとなった。
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