研究課題/領域番号 |
19K15826
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
須田 碧海 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境研究部門, 主任研究員 (20789573)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 土壌化学 / ヒ素 / 有機質資材 / 水田土壌 / 酸化還元 |
研究実績の概要 |
有害元素であるヒ素は土壌に普遍的に存在し、作物による吸収を介して人体に取り込まれる。日本人の主食であるコメのヒ素濃度は他の穀類と比較して高く、ヒ素摂取源として重要である。農地への有機質資材の施用には多くの利点があるが、特に水田では土壌ヒ素の可溶化(溶存ヒ素濃度上昇)が進行し、結果的にコメのヒ素濃度が上昇することが指摘されている。そこで、本課題では、有機質資材を施用した際の土壌ヒ素可溶化リスクを資材特性から予測する方法、および、そのリスクを低減する方法を提示することを目的としている。 昨年度より、日本の水田で一般的な低地土に様々な有機質資材を添加して湛水土壌培養を実施し、土壌の溶存ヒ素濃度とその化学形態、および関連パラメーターに与える影響を検討してきた。3年目になる今年度は、低地土と大きく特性が異なる黒ボク土でも同様の試験を実施した。さらに、あいちシンクロトロン光センターにて、培養期間における土壌固相のヒ素形態の推移をXAFS法で明らかにした。 どちらの土壌でも、有機質資材に含まれる酸性デタージェント可溶有機物(≒易分解性有機物)含量が多いほど土壌の溶存ヒ素濃度(主に亜ヒ酸)が上昇した。これは、有機物の分解に伴う還元の進行によって、固相の大部分を占めていたヒ酸がより溶出しやすい亜ヒ酸に変化したこと、ヒ素を保持する鉄酸化物の還元溶解が進んだことが原因と考えられた。また、液相・固相のどちらでも有機ヒ素はほぼ検出されず、微生物活動の活発化によるヒ素の有機化の促進は観察されなかった。 興味深いことに、黒ボク土では溶存ヒ素濃度の上昇量が低地土よりも2桁低く、黒ボク土では有機質資材施用に伴う土壌ヒ素の可溶化が起きにくいことが示唆された。これは、土壌固相のヒ酸から亜ヒ酸への還元割合が小さいこと、還元されずに残存する鉄酸化物が多いことが一因と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は多くのデータを取得し、本研究課題の目標の一つを達成することができた。すなわち、有機質資材に含まれる「酸性デタージェント可溶有機物」が、資材を施用した際の土壌ヒ素可溶化リスクの予測に利用できることを明らかにした。また、もう一つの目標である、有機物施用による土壌ヒ素可溶化リスク低減法の確立についても、達成に向けて予備試験を開始している。 したがって、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度までの成果を論文として投稿するとともに、未達成の目標である有機物施用による土壌ヒ素可溶化リスク低減法の確立に重点を置き研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に計画していた論文の英文校閲が間に合わず、繰越金が生じた。2022年度に英文校閲費用の一部として使用する。
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