研究課題/領域番号 |
19K15827
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
津釜 大侑 東京大学, アジア生物資源環境研究センター, 准教授 (10726061)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | アスパラガス / 雌雄性 / 遺伝子 / 花 / ゲノム / 転写因子 / 生殖 |
研究実績の概要 |
当初の計画通り、食用アスパラガスの性決定遺伝子の候補であるAoMYB35という転写因子を大腸菌により組換えタンパク質として発現させ、これを精製し、DNA affinity purification sequencing (DAP-Seq) を行い、アスパラガスのゲノム中でAoMYB35が結合する領域を同定した。AoMYB35のシロイヌナズナにおけるオーソログであると考えられるAtMYB35という転写因子に関しても同様にDAP-Seqに供し、シロイヌナズナのゲノム中でAtMYB35が結合する領域を同定した。これらのデータの解析を現在進めている。AoMYB35とAtMYB35の機能解析の一環として、AtMYB35と共発現する複数のシロイヌナズナ遺伝子について解析を行った。この結果、シロイヌナズナの花粉粒の解離と稔性(種子を発達させる能力)維持に必須の遺伝子として、GELP77というエステラーゼ遺伝子を見出した。食用アスパラガスの性決定遺伝子のもう一つの候補であるSOFFをPCRを介してクローニングすることを試みたが、成功には至らなかった。新たな性決定遺伝子を単離する試みとして、Oxford Nanopore Technologies社のMinIONという次世代シーケンサーにより、食用アスパラガスの複数の品種の雄株と雌株を用いて全ゲノムシーケンシングを行った。公開されているゲノム配列中には未決定な部分や誤りがあるが、その近傍の遺伝子をMinIONのデータを活用してクローニングすることに成功し、MinIONのデータの有用性が示唆された。一方、新たな性決定遺伝子の候補の発見には至っていない。以上の結果を基に2報の査読付き論文を発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、圃場で栽培している食用アスパラガスの植物体に着いた花の数が少なく、当初予定していた植物ホルモン施用試験などは行わなかった。しかし、これはそれらの植物体を2019年度に移植したことによるダメージに起因すると考えられ、2020年度には多くの花が着き、それらを用いて当該試験を実施することが可能であると考えている。但し、新型コロナウイルス・COVID-19の感染拡大の影響を受ける可能性もある。AoMYB35とそれに関連するAtMYB35の機能解析に関しては当初の予定通りに進展している。GELP77の機能に関する知見は、本研究の副次的な成果であるが、雄しべや葯の発達のメカニズムを理解する上では重要なものであると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年5月現在、東京における新型コロナウイルス・COVID-19の感染拡大の影響を受け、新たな実験を行うことが困難な状況である。特に、圃場において成育している食用アスパラガスの植物体を用いて行う実験・解析は2020年度に行えなくなる可能性もある。現在は既存のデータを再解析して新規の食用アスパラガスの性決定遺伝子の候補を見出すことも試みている。実験の再開に備えて、文献・データの整理に注力する。本来の計画には含まれていなくともこのような状況で迅速に実施可能かつ本研究の目的に適う実験・解析に関しては積極的に実施していきたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
圃場において栽培している食用アスパラガスの植物体に着いた花の数が少なかったことから、一部の実験を行わないことにした。これに伴い試薬の購入費が抑えられて次年度使用額が生じた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、2020年度中に実施できる実験の量も抑制される可能性はあるものの、研究目的の達成に向けて研究期間全体を通して適切に助成金を使用していく予定である。
|