研究課題/領域番号 |
19K15829
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
宮原 平 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 講師 (90720889)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | デルフィニウム / アントシアニン / 花色 / 濃淡 |
研究実績の概要 |
本研究ではデルフィニウムの花色の濃淡について解析を進めている。デルフィニウムは青色が有名な花であるが、濃青色を示す品種はまだそれほど多くはない。また、近年赤い園芸品種の作出も進められているが、鮮やかな赤や濃い赤を呈する品種はなく、計画的に育種しても淡いピンク色になってしまう問題がある。さらに、開花時期の違いにより、花色に大きく違いができてしまう品種もあり、周年で品質を維持して開花させるのが難しい問題がある。デルフィニウムに限らず、他の植物種であっても、特定の遺伝子が欠損することで花色に影響を及ぼすことは多数報告されている。しかし、一般的に、遺伝子発現のオン・オフによる花色変化は異なる品種として分離されており、育種現場でのほとんどの花色変化は連続的な変化であることから、上記の花色変化の状況とは異なっている。このため、アントシアニンの代謝経路全体を俯瞰した解析から、花色の濃淡に対する複合的な要因について調査することが求められている。 本研究では遺伝的背景が近い個体群での解析を内的要因による花色への影響調査、開花時期の違いによって花色変化する品種での解析を外的要因による花色への影響調査として、色素解析およびトランスクリプトーム解析を行なっている。これまでに、内的要因の解析に関する花色解析とRNA-seqデータの取得が完了している。 また、デルフィニウムの一部の白色花品種では、時間の経過とともに花色が白から青に変化するものがあるが、この花色変化の原因についても調査を行った。この原因は、弱酸性条件下でも色がつかないアントシアニン分子種がメインに蓄積しており、時間の経過とともに細胞が壊れることで呈色が起こることが示唆された。今後さらに解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、親品種とその掛け合わせから作出された品種の色素解析およびRNA-seq データの取得を終えた。さらに2年目に解析予定としている、開花時期の違いにより花色に大きく濃淡の変動が見られる品種を選定し、1回目のサンプリングを終えている。使用するサンプルとしては、赤系統の品種のF1品種を自殖して得られたF2品種で、黄色、オレンジ、赤、赤紫色の色幅のある兄弟個体がある。また、青系統の品種で、同一の色素組成をもつ品種を掛け合わせて得られた、藤色、ラベンダー色、青色のF1個体とその親についても解析を行う。これにより、内的要因と外的要因、さらに青系統と赤系統のどちらの影響についても解析することで、花色の濃淡を決定する因子の普遍的な知見を得ることができる。トランスクリプトーム解析はまだこれからの段階であるが、花に蓄積するアントシアニンについての色素解析は概ね完了しており、今後の解析を行う際に有用なデータとなる。 また、特定の白色花が時間の経過とともに青味を帯びることについて、色調変調作用の原因究明では、蓄積しているアントシアニンの性質が原因であることが考えられた。これまでの研究および本申請の計画段階では、アントシアニンの共存物質が時間の経過とともに減少または分解することで色の変化が現れていると推察していた。そのため、萼片蓄積物とアントシアニンを混合することで、色調が減退する物質の探索を行なっていた。混合することで吸光が若干低減する物質を見つけたが、色が消失するほどの効果がなく、他の要因が考えられた。そこで、蓄積しているアントシアニンについて様々なpHでの色調を調べたところ、pH 4-7の領域ではそもそも色がほとんどつかないことが判明した。中性領域ではアントシアニンは退色することが知られているが、pH 4-5でも色がつかないアントシアニンは例がないため、さらに解析を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
まず、昨年度に色素解析およびRNA-seqデータの取得が完了した、内的要因により花色に濃淡の差ができている個体群について解析をすすめる。これらの個体は遺伝的背景がほとんど同じであるのにも関わらず、花色の濃淡に大きな違いが見られている。一方で、花色以外の表現系には大きな違いは見られていない。このため、花色に濃淡の差ができる内的要因の例として、どこの遺伝子発現が変動することで花色の濃淡に影響を与えているのか、比較解析を行う。デルフィニウムはゲノム解読が行われていないので、サンプルの中で一番アントシアニンの構造が複雑な分子種を蓄積している個体のトランスクリプトームデータをアッセンブルし、鋳型配列とする予定である。遺伝的背景が近いため、それぞれの個体で遺伝子配列に大きな違いが生じていることは考えにくいので、各個体で上記鋳型配列にマッピングを行い、発現量を算出することで、アントシアニン合成経路のどこで変化が生じているのかを調査することができる。この調査からデルフィニウムでどの遺伝子の発現が変化することで、花色に影響が出るのかが明らかとなる。さらに、同一品種であるが、生育時期の違いにより花色の濃淡に大きく違いが出る品種を、外的要因により濃淡に影響が出るサンプルとして解析を進める。こちらの品種では春先に花を咲かせると淡い青色になるが、初夏に花を咲かせると濃い青色になることが知られている。おそらく生育時の温度と日照による影響だと考えられるが、このような外的要因により、どのような遺伝子発現の変化が起こっているのか、その調査を行う。これにより、内的要因で明らかになった遺伝子と同じものが、外的要因でも影響を与えているのか、または、それぞれの要因により原因が異なるのかを明らかにできる。この結果から、今後育種の際にどのような個体を選抜することで理想とする品種を作出できるのか示すことが可能となる。
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