本研究では、デルフィニウムにおけるアントシアニン合成関連遺伝子群の変動と花色の濃淡の関連性を包括的に調査し、生産現場における遺伝的要因および環境要因による花色の変化について、花色濃淡が生み出される機構を明らかにすることを目的とした。サンプルとして、赤色花と黄色花の交雑種を交配して得られたF2個体群の黄、赤、オレンジ、赤紫色の4つの異なる花色を持つ遺伝的背景が同等な個体群と、3月に採花した場合と6月に採花した場合で、環境要因により大きく花色変化する品種を用意した。 解析から、F2個体群の花色変化は、アントシアニン合成経路に位置する酵素遺伝子の発現がオン/オフされることにより、生み出されていることが示された。黄色の個体では酵素遺伝子の一つであるFLSが強く発現しており、DFRの発現は抑制されていた。一方で、赤色の個体ではFLSの発現が抑制されており、DFRの発現が促進されていることが示されており、オレンジ色の個体では両者の遺伝子が同等に発現することで、このような花色の変化が得られていた。また、赤紫色の個体では、F3’5’Hが唯一発現しており、前述の2遺伝子の発現はオレンジ色の個体と同等であり、それゆえに青みを帯びた花色が生成されていることが示された。 季節変動により花色が変化する品種の解析では、蓄積しているアントシアニンの構造に違いはなく、アントシアニンの蓄積量に大きく違いがあることが明らかとなった。トランスクリプトーム解析から、花色が薄い個体ではアントシアニン合成経路に関わる酵素遺伝子の発現量が全体的に抑制されており、その結果、代謝経路の活性が低く、合成されるアントシアニン量が低下していることが考えられた。この原因は転写因子のMYBによる影響が考えられ、温度に依存した発現調節機構が示唆される結果が得られた。今後は温度変化の影響についてさらに研究を進める予定である。
|