研究課題/領域番号 |
19K15834
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
森本 拓也 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 講師 (90837634)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 属間雑種 / 種間障壁 / リンゴ亜連 / バラ科果樹 / ゲノム解析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,リンゴ亜連果樹が形成した交雑障壁機構を解明し,それを打破して雑種果樹を効率的に作出する技術開発を行うことである.2020年度は以下の実験を実施した. 1)リンゴとナシの交雑障壁を制御するゲノム領域の解析 リンゴを種子親とした場合にニホンナシ花粉は和合となるが,セイヨウナシ花粉は花粉管伸長が阻害されて不和合となる.このナシ属内における交雑和合性の差異を決定する遺伝子座は第5染色体中部の約3Mdの領域内に存在する(Morimoto et al., 2020, Tree Genetics and Genomics).これまでにリンゴやナシの参照ゲノム配列を利用して,対象ゲノム領域の比較解析を進めていたが,これに加えて交雑試験に利用した品種の新規ゲノム配列決定を行った. ニホンナシとセイヨウナシの種間雑種である大原紅のゲノムシークエンスを行い,親種のハプロタイプを区別するアセンブル手法を利用して,ニホンナシとセイヨウナシのハプロコンティグを作成した.交雑障壁遺伝子座周辺のゲノム配列を比較したところ,セイヨウナシとニホンナシ間で300kbのindelの存在が示唆された. 2)リンゴとナシの属間交雑親和性における種間・品種間差異の調査と新規雑種の作出 2020年度は種々のニホンナシ,セイヨウナシおよび種間雑種を用いて,種子親のリンゴに対する交雑親和性を種子形成率および獲得種子の発芽率の点から調査した.その結果,ニホンナシはセイヨウナシよりも高い種子形成率を示したが,同一種内の品種間でも多様性がみられた.一方で,ナシ属の種間雑種は種子形成率,獲得種子の発芽率が非常に高いことが示された.このことから,リンゴとの交雑親和性は種間だけでなく品種にも影響されることを明らかとした.特にナシ属の種間雑種は効率的な雑種獲得に有効であることが示され,その機構の解析にも着手する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲノム解析で大きな進展がみられ,リンゴとナシの交雑障壁機構の解明に向けた有望なデータが得られている.候補遺伝子の解析に集中して取り組むことで,本研究のゴールである交雑障壁の打破に繋がる知見が得られると期待される.さらに,種間や品種間の違いによる交雑親和性の成否までを明らかとすることで,より効率的に雑種作出を行うための技術が構築できると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
第一の目標は本研究で同定した交雑障壁の原因領域に存在する300kbのindelの解析である.現在は座乗遺伝子の予測と種間でのシンテニー解析を進めており,今後は花粉RNA-seqを用いて遺伝子発現の差異にも調査を広げる計画である. さらに,これまでとは異なる交雑組合わせからもリンゴとナシの属間雑種を多数作出しており,交雑障壁の一般性の調査を開始している. 加えて本研究では,バラ科リンゴ亜連の広範囲の果樹を対象とした交雑親和性の調査を実施おり,ビワ,カリン,マルメロといった果樹を加えて網羅的な交配試験を進めている.一部の組み合わせでは新規雑種の獲得にも成功しており,バラ科果樹の雑種研究を進めるための実験材料の準備が完了しつつある. 今後は交雑障壁の分子機構の解析のみならず,雑種系統における形質データの取得や本研究で確立した交雑技術を利用した有用形質の導入といったように,育種や生産に繋がる応用面での実験に取り組む予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度にはRNA-seq解析を予定していたが、該当内容を2021年度に実施することとしたため、一部費用を繰り越した.
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