本研究の目的は,リンゴ亜連の主要果樹であるリンゴ(Malus)とナシ(Pyrus)における属間交雑障壁の機構を解明し,それを打破して雑種果樹を効率的に作出する技術開発を行うことである.最終年度となる2021年度は,リンゴとナシの交雑障壁を制御するゲノム領域の解析を実施した. リンゴ‘ふじ’とナシ‘大原紅’(石井早生×マックス・レッド・バートレット)を交雑した属間雑種集団の遺伝解析によって,リンゴとナシの受精前交雑障壁に関する原因領域を第5染色体上の約3Mdの領域内に特定している.昨年度に構築した‘大原紅’のドラフトゲノム配列を参照して候補遺伝子の探索を実施した.まず,相同性比較の結果から約240 kbの大きな挿入配列がニホンナシ‘石井早生’由来のハプロタイプ上に検出された.PCRによってナシ属品種コレクションでの有無を調査した結果,セイヨウナシでは供試したいずれの品種(25品種)でも挿入配列は検出されなかったが,ニホンナシでは54品種中16品種で挿入配列の存在が示唆された.しかし,挿入配列と交雑和合性との関連は確認できなかった. 次に,種間障壁関連ゲノム領域には,ニホンナシハプロタイプ(Hap-Pp)で192遺伝子,セイヨウナシハプロタイプ(Hap-Pc)で202遺伝子が予測され,Blast検索で双方向にBest hitする遺伝子は168ペアであった.各ハプロタイプに特異的かつ花粉で高発現する遺伝子群にはF-boxタンパク質や病害関連タンパク質をコードする遺伝子が含まれていた.さらに,一部の遺伝子では,片親由来のアレルが特異的に発現しており,有力な候補遺伝子であると考えられた.
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