研究課題/領域番号 |
19K15835
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
東 未来 日本大学, 生物資源科学部, 助手 (80783414)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ペチュニア / 花 / 複色模様 / ジベレリン / 矮化剤 |
研究実績の概要 |
これまでに,花弁の外縁部が白色のピコティ型と花弁の中心から放射状に着色するスター型の模様を有するペチュニアにジベレリン(GA)生合成阻害剤(矮化剤)を処理すると,赤色部位が消え,花弁のほぼ全てが白色化することを明らかにした.本研究では,矮化剤処理によって花模様が変化する現象を利用し,花模様を改変する技術を開発するとともに,矮化剤処理によって花色が変化するメカニズムを明らかにすることを目的とする. 本年度は,内生GAの複色模様への関与を明らかにするため,GA生合成阻害剤の一種であるダミノジッド(SADH)処理が複色模様に及ぼす影響を調査した結果,赤色部位が減少し,花弁全体が白くなることを明らかにした.一方で,GAを処理すると白色部位が減少し,花弁全体が赤くなった.さらに,SADH処理によってGA生合成を阻害したペチュニアの蕾に非活性型GAを処理すると,花弁の赤色部位は減少したままであったが,活性型GAを処理すると赤色部位が増加し,無処理区と同様の複色模様を示した.これらのことから,赤色部位の形成には活性型GAを必要とし,SADH処理による赤色部位の減少は内生活性型GAの減少によって誘導されることを明らかにした. ペチュニアでは,アントシアニン合成関連遺伝子としてCHS,CHI,F3H,DFR,ANS,3GT等が報告されている.これらの遺伝子について,無処理区、GA処理区、SADH処理区の花で発現量の比較をリアルタイムPCRによって行った.その結果,無処理区の赤色部位およびGA処理区の花ではCHSの発現が確認されたが,無処理区の白色部位およびSADH処理区の花ではほとんど発現していなかった.他の遺伝子に関しては,発現量に明らかな差はなかった.このことから,活性型GAはCHSの発現を促進し,複色模様の赤色部位を増加させる機能があることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)異なる種類の矮化剤処理によって形成される花模様を明らかにするために,矮化剤として,パクロブトラゾール(PBZ),ダミノジッド(SADH),トリネキサパックエチル(TNE),プロヘキサジオンカルシウム塩(PCa)を処理し,それぞれペチュニアの複色模様の変化を調査した.その結果,SADH処理区では白色部位が増加し,TNEとPCa処理区では赤色部位が増加することを明らかにした.PBZは複色模様に影響を及ぼさなかった.また,これらの現象は単色品種やグラデーション模様の品種では見られず,ピコティ型およびスター型模様の品種でのみ確認された. (2)矮化剤処理による複色模様の変化にジベレリン(GA)が関与しているのかを明らかにするため,GA処理時の複色模様に及ぼす影響を調査した.その結果,GA処理区では花弁の赤色部位が増加し,SADH処理とは逆の反応を示すことを明らかにした.さらに,SADH処理によってGA生合成を抑制したペチュニアに,活性型GAを処理すると複色模様が元に戻るが,非活性型GAを処理しても白色のままであることを明らかにした.これらの結果から,ペチュニアの複色模様の形成には活性型GAが関与しており,矮化剤によって複色模様が変化するのは,内生GAの代謝が阻害されたことによって,活性型GAが減少(あるいは増加)したことによるものと示唆された. (3)ペチュニアのアントシアニン合成に関与する遺伝子について,無処理区,GA処理区,SADH処理区で発現量の比較を行った.その結果,無処理区の白色部位およびSADH処理区の花ではCHSがほとんど発現していないことが明らかになった.このことから,矮化剤処理による複色模様の変化にはCHSが関与していることが示唆された. 上記のことを明らかにし,当初の計画通りに進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度も研究計画通りに遂行する. 令和元年度の研究結果から,矮化剤処理による複色模様の変化には,ジベレリン(GA)が関与していることが明らかになった.また,矮化剤の一種であるダミノジッド(SADH)を処理するとCHS遺伝子の発現量が低下することが明らかになった.令和2年度には,SADH処理によってGAの生合成を抑制すると,なぜCHS遺伝子の発現量が低下するのかを明らかにする.これまでに,ペチュニアの複色模様の形成にはCHSの転写後抑制(PTGS)が関与していることが報告されており,白色部位ではCHSのsiRNAが蓄積することが明らかにされている.そこで,SADH処理およびGA処理をしたペチュニアの花において,CHSのsiRNAの定量を行う. さらに,複色模様の形成におけるGAの関与をより詳細に解析するため,複色模様ペチュニアにおける赤色部位および白色部位の内生GA量の定量を行う.また,SADH処理時のペチュニアの蕾および花における内生GA量の定量を行い,実際に活性型GAの量が減少しているのかを明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年3月21日および22日に開催予定であった園芸学会令和2年度春季大会に参加を予定していたため,交通費として申請していたが,新型コロナウイルスの影響により大会自体が中止となったため,次年度使用額が生じた.生じた次年度使用額については,次年度に計画しているジベレリンの定量のための試薬等の消耗品費として使用する予定である.
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