研究課題/領域番号 |
19K15840
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北沢 優悟 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (50803160)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ファイトプラズマ / ファイロジェン |
研究実績の概要 |
本研究は、ファイトプラズマが分泌する花器官葉化誘導因子ファイロジェンが、葉化以外に昆虫誘因能などを持つ多機能因子であることに着目し、この多機能性の根底にある分子的機能の解明を目指すものである。葉化誘導の過程でファイロジェンが特定の花器官形成関連MADS-box転写因子と結合、分解を誘導することに着目し、当該転写因子と構造の類似した広範な宿主因子をファイロジェンが標的とすることで多機能性を獲得したという仮説を立て、検証を行う。 初年度はまず、ファイロジェンが標的とする新規転写因子のスクリーニングを行った。YFPを用いた生細胞内イメージングとウェスタンブロッティングによるタンパク質の定量実験を併用することで、複数のMADS-box転写因子を始めとして、構造の類似した転写因子がファイロジェンによって植物細胞内で分解を誘導されることが新たに明らかとなった。当該因子の中には、JA応答や昆虫抵抗性に関わることが示唆されている因子が含まれていた。現在は、ファイロジェンが認識する結合モチーフの特定を進めており、その結果を踏まえてファイロジェンの標的因子の網羅的発現抑制系を構築し、ファイロジェンが植物に与える影響を解析することを目指す予定である。また、ファイロジェンによる花器官形成関連MADS-box転写因子群の分解にはユビキチン-プロテアソーム関連因子の関与が報告されていることから、本研究で特定された新規標的因子群も同様の機構で分解されているかを検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はファイロジェンが認識する新規宿主因子の網羅的探索を行うとともに、その配列比較を踏まえてファイロジェンの作用点を特定することを試みた。うち、前者に関しては複数の転写因子がファイロジェンの標的であることが見いだされたため、研究は予定通りに進展したと考えている。一方で、標的因子群における共通モチーフの特定にはいまだ至っていない。理由として、当該因子群においてファイロジェンの標的となる領域の絞り込みが不十分であることがあげられる。ただし、一部の転写因子においては既にファイロジェンの標的領域をドメインレベルまで絞り込んでいる段階であり、今後さらなる絞り込みを行うことで、共通モチーフの特定が可能と考えられる。以上を踏まえ、本研究はおおむね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、特定した共通モチーフをもとに標的宿主因子の網羅的発現抑制系を構築し、葉化誘導以外の影響が生じるかを検証する。具体的には昆虫誘因能やJA応答性を指標とする予定である。また、次世代シーケンサ解析によって植物の遺伝子発現変動様式をモニタリングし、ファイロジェンによって影響を受ける経路の全容解明を目指す。 加えて、ファイロジェンの多機能性を支える分子機構の解明の一端として、ファイロジェンによる標的宿主因子群の分解機構の共通性を検証したい。ファイロジェンの既知標的MADS-box転写因子群の分解においてはユビキチン-プロテアソーム関連因子の関与が報告されていることから、本研究で特定された新規標的因子群の分解過程においても同様の因子が関与しているか、免疫沈降による相互作用の検証やプロテアソーム阻害剤による分解活性の変化の検証などによって解析することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はファイロジェンの標的における共通領域を特定し、その結果を踏まえてファイロジェンの標的因子の網羅的発現抑制系を構築する予定であった。しかし、領域の特定が今年度中に完了せずその後に予定していた実験が次年度に持ち越しとなったため、次年度使用額が生じた。次年度は当初の想定通り、上記の実験に使用する想定である。
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