本研究は、ファイトプラスズマが分泌する花器官葉化誘導因子ファイロジェンが、葉化以外に昆虫誘因能などを持つ多機能因子であることに着目し、この多機能性の根底にある分子機構の解明を目指すものである。本年度はまず、ファイロジェンが標的とする宿主因子の網羅的発現抑制系構築を目指し、ファイロジェンが認識する結合モチーフの特定を進めた。しかしながら、標的因子が当初の想定より多岐にわたり、共通の結合モチーフを見出すことはできなかった。そこで、異なるアプローチからファイロジェンの分子的機能の解明を進めるため、様々な地域、植物を由来とするファイトプラズマからファイロジェンを探索し、その機能の保存性を解析した。ファイロジェンの機能に重要な保存領域を標的とした遺伝子増幅法に基づく効率的な探索系を構築し、本系を用いて新たに9種25系統のファイトプラズマからファイロジェンを同定した。これらを既知のファイロジェンとともに機能を比較した結果、ファイロジェンが有する基本的な構造は保持されているものの様々な機能についてホモログ間での分化が進んでいることが明らかとなった。本成果により、ファイロジェンホモログ間の比較解析によって、ファイロジェンに共通の根幹をなす機能の有無や、機能分化を及ぼす原因となった分子メカニズムの解明が可能となると考えられる。一例として、本年度は葉化誘導能を喪失したファイロジェングループに着目し、その原因がわずか1アミノ酸の変異に起因すること、これによりファイロジェンが花器官形成に関わる宿主因子との相互作用を失うことを明らかとし、ファイロジェン内の当該相互作用に重要な領域を特定した。今後はホモログ間の標的宿主因子や機能の差異をさらに解析することで、ファイロジェンの多機能性の研究が一層進展すると考えられる。
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