研究課題
植物は病原体の攻撃に加えて、周辺環境の変動など、多様な外的ストレスに同時に晒される。多様なストレスに頑健性を付与する次世代作物保護技術の開発のためには、「病原体感染戦略の分子メカニズム」に加えて、感染によって宿主植物にもたらされる「生理学的変化」の影響を理解することが必要となる。本研究は、細胞内プロトン恒常性維持に関わる宿主膜タンパク質複合体V-ATPaseに着目し、「宿主プロトンダイナミクスの改変による植物ウイルス増殖戦略」と感染に付随する「宿主プロトン恒常性の変化とその生理学的影響」の理解を目指している。本目的の達成にあたり、red clover necrotic mosaic virus (以下、RCNMV) をモデルウイルスとして計画を進めた。タンパク質間相互作用解析およびイメージング解析から、RCNMVは複製酵素タンパク質p27を介してV-ATPaseのサブユニットEに特異的に結合し、ウイルス複製コンパートメントへとリクルートすることが明らかとなった。また、RCNMVを含む複数の植物RNAウイルスはV-ATPase活性をウイルス複製に必要とすることを示した。さらに、これらのウイルスは、ウイルスタンパク質を介してV-ATPase活性依存的にウイルス複製コンパートメントのpHを低下させることを明らかとした。また、塩ストレス耐性を指標に、RCNMVがV-ATPaseが関与する宿主生理学的応答に影響するかを検討した。しかしながら、ウイルス感染の有無による顕著な差は認められなかった。以上の結果は、複数の植物RNAウイルスがV-ATPaseを標的とし、細胞内プロトン恒常性を調節することで増殖に適した局所環境を整備することを示唆する。今後、ウイルス複製コンパートメントのpH低下がどのようにしてウイルス複製に貢献するのか、その分子メカニズムの詳細を明らかにする必要がある。
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