本研究ではまず、PSTVdの左側分子に関して病原性との関係を分析するため、PSTVdダリア株(弱毒型)に特徴的な左側分子中の塩基置換を、基準株をはじめとする強毒株に変異導入した変異体10種を構築した。作成した感染性クローンをもとに作成したRNA転写産物(接種源)をRutgersトマトへ接種したところ、今回作成した変異体は全てトマトへ感染した。接種後1か月目の感染トマトからRNAを抽出し、塩基変異の有無を調査したところ、PSTVd左側分子への塩基変異導入は高確率で共変異を誘導するが、共変異した場合も病原性にはほとんど影響しないことが明らかになった。 また、次世代シークエンス解析で得られたデータをもとに、PSTVd感染トマト体内(細胞中)で特に蓄積量の多いウイロイド由来のスモールRNA(Viroid-sRNA)についてin silico解析を実施したところ、標的となりえる宿主因子が見出された。Viroid-sRNAと同様に標的宿主因子として考えられるマイクロRNAについて、標的候補2種(miR159とmiR319)の検出用プローブをmiRBaseで選定し、得られたサンプルを用い検定したが、差異は得られなかった。 次に、RNAiを介してVirP1タンパク質をノックダウンした遺伝子組換えトマト(品種:マイクロトム)について、mRNA発現量を野生型と比較した結果、0.4-0.5倍程度に抑制されていることを確認した。これらのトマトについて、各種PSTVd株を接種したが、いずれも高率に感染し、PSTVdの感染抑制には至らなかった。 以上のことから、ウイロイド―宿主植物間の感染や、病徴発現の有無、病徴の程度については、複数の要因が相互的に作用することによって決定される可能性が示された。その中でも、単一の変異誘導によって、強毒株の弱毒化に至った点は、特筆すべき点であると考えられる。
|