研究課題/領域番号 |
19K15843
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
近藤 真千子 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 助教 (40645975)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 植物病原細菌 / エフェクター / イネ / 免疫 / 病徴 |
研究実績の概要 |
植物病原細菌Acidovorax avenaeのイネ非病原性N1141菌株のIPPTはイネの免疫反応を誘導するが、イネ病原性K1菌株のIPPTはイネの病徴を引き起こす。本研究ではIPPT分子によるイネの免疫誘導と病徴発現の特異的制御機構を分子レベルで明らかにすることを目的として研究を行った。 2020年度では、IPPTタンパク質のイネ細胞内への輸送機構について、K1菌株のIPPTとCyaAとの融合タンパク質を発現する菌株を作製して調べたところ、N1141菌株のIPPTと同様にK1菌株のIPPTはイネ細胞内へ分泌されていることが明らかとなった。このことから、イネにおける菌株の認識の違いはそれぞれの菌株から輸送されるIPPTの量によるものではないことが明らかとなった。 さらに、両菌株のIPPT欠損株にそれぞれのIPPTを再導入したIPPT相補株をそれぞれイネに接種したところ、N1141菌株のIPPT相補株ではN1141菌株を接種した場合と同様にイネの過敏感細胞死誘導が認められ、それに伴う核DNAの断片化や過敏感細胞死の正の制御因子であるOsNAC4の発現も認められた。一方、K1菌株のIPPT相補株ではK1菌株をイネに接種した場合と同様にこれらの免疫反応は認められなかった。このことから、N1141菌株のIPPTがイネの免疫反応誘導に関与していることが確認できた。 また、昨年度までに発見したN1141菌株のIPPTと相互作用するイネタンパク質IP1、IP2、IP3の機能を調べるため、IP1、IP2、IP3のイネ変異植物体をCRISPR-Cas9を用いて作出し、そのイネ切片にN1141菌株を接種したところ、イネ野性株にN1141菌株を接種した場合と同様に過敏感細胞死が誘導されたことから、これらのイネタンパク質はN1141菌株が誘導する過敏感細胞死に関与していないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の研究では、K1菌株のIPPTがN1141菌株のIPPTと同様にイネ細胞内へ輸送されることが明らかとなり、IPPT分子によるイネの免疫反応と病徴発現の特異的な制御は、イネ細胞内へのIPPT分子の輸送の違いがイネにおける認識の違いに影響しているわけではなく、イネ細胞内に輸送されたIPPTの働きによるという新たな知見が得られた。 また、N1141菌株のIPPTと相互作用するイネタンパク質IP1、IP2、IP3のCRISPR-Cas9系を用いたイネ変異植物体に成功し、そのイネ切片にN1141菌株を接種したところ、イネ野性株と同様に過敏感細胞死が誘導され、これらのイネタンパク質はN1141菌株が誘導する過敏感細胞死に関与していないことが明らかとなり、研究は概ね計画通りに進んでいると考えられる。また、新たにK1菌株を非宿主であるシコクビエの切片に接種すると、N 1141菌株を接種したイネと同様の細胞死が認められ、K1菌株のIPPT欠損株では認められなくなることが明らかとなった。このことから、K1菌株のIPPTも非宿主において免疫反応誘導に関与することが示唆され、IPPTはイネだけでなくシコクビエに対しても特異的な制御をしている可能性があることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究で、酵母Two-hybrid法で同定したN1141菌株のIPPTと相互作用するイネタンパク質はイネの過敏感細胞死に関与していないことが明らかとなったことから、現在、イネcDNAライブラリーをプレイとした酵母Two-hybrid法によるイネ相互作用分子の探索と同時に両菌株のIPPTと相互作用するイネタンパク質について高分解能オービトラップ質量分析計を用いた解析を試みている。これによってIPPTと相互作用するイネタンパク質を直接同定したい。これらの相互作用タンパク質の欠損株をイネ変異体ストックコレクションから取得し、そのイネ変異体に各菌株を接種して免疫反応誘導や病徴発現がどのように変化するかを確める。もし、イネ変異体ストックコレクションからこれらの相互作用タンパク質欠損イネが取得できなかった場合はRNAiノックダウン体やゲノム編集による欠損イネを作製して確認する。また、免疫反応誘導や病徴発現にどのような遺伝子やタンパク質が働いているかを明らかにするため、IPPT欠損株を接種したイネやDEX誘導型IPPT発現イネ・相互作用分子欠損イネなどにおける遺伝子発現やタンパク質発現の変化についてRNA-seqやマイクロアレイ解析、プロテオーム解析を行い、過敏感細胞死の正の制御因子であるOsNAC4の発現や褐変化に関与するオキシダーゼ遺伝子などの発現がどのように変化しているかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究で、N1141菌株のIPPTと相互作用するイネタンパク質のCRISPR-Casイネ変異体の解析により、同定したイネタンパク質はN1141菌株によって誘導される過敏感細胞死に関与しないことが明らかとなり、新しくIPPT相互作用イネタンパク質を同定することとなった。そのため、2020年度で行う予定であった相互作用イネタンパク質の変異体を用いた解析を行わなかったため、次年度使用額が生じることになった。したがって、本年度の研究で新しい相互作用イネタンパク質が同定された場合の変異体植物の取得や作成および解析に次年度使用額は用いる予定である。また、誘導発現型イネなどを用いたRNA-seqやマイクロアレイ解析にも使用する。また、学会発表や現在執筆中の英語論文の論文投稿費に支出する予定である。
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