多種の作物に感染する炭疽病菌と世界七大病害の一つであるイネいもち病菌は付着器と呼ばれる濃褐色を呈するドーム状の構造体の感染器官を形成する。本器官の色素の生合成は宿主侵入の可否を決める重要な要因であり、その制御機構を分子レベルで理解することは新規防除剤の開発に繋がる。これまでに4種のメラニン生合成酵素が同定されており、適切なメラニン生合成を行うには、これらの酵素活性を制御する必要がある。本研究では、細胞内銅イオン輸送因子の機能解析を行い、植物病原糸状菌のメラニン生合成酵素ラッカーゼの活性を制御する細胞内の銅イオン輸送機構を解明する課題である。 本研究実績として、ウリ類炭疽病菌の銅輸送因子Ict1の金属結合モチーフ(MXCXXC)を構成するメチオニンと2つのシステインがメラニン生合成に関与することを見出した。また、銅イオン輸送P型ATPaseであるCcc2もメラニン生合成に関与していた。しかし、銅イオン輸送P型ATPaseで2つの金属結合モチーフをコードする遺伝子(Cob_01124)はメラニン生合成に関与していなかった。ICP発光分光分析装置を用いた銅含有量の測定結果より、Ict1は細胞内銅イオンの恒常性に関わることを見出した。また、いもち病菌におけるIct1とCcc2の破壊株を作出し、付着器のメラニン色を観察した結果、いもち病菌のメラニン生合成機構にも炭疽病菌と同様の機構をもつことが示唆された。
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