オオホシカメムシは、昆虫としては例外的に培養可能な共生細菌(バークホルデリア属)を腸管上皮細胞内に細胞内共生させている。本研究では、このオオホシカメムシで見られる共生系を「昆虫細胞内共生の新規モデル共生系」として確立することを目指している。本年度は、(1) 細胞内共生細菌の感染動態調査(前年度から継続)および(2)オオホシカメムシに対するバークホルデリア属細菌の感染実験に取り組んだ。 (1)に関しては、まず、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を標的とした定量PCR実験系を構築した。続いて前年度に作製した共生細菌GFP発現変異株(以下、GFP株)をオオホシカメムシに人工的に感染させ、各成長段階で解剖により腸管を摘出し、さらに腸管由来のDNAを抽出した。このDNAサンプル中のGFP遺伝子コピー数(共生するGFP株の細菌数に相当)を定量PCRにより定量したところ、感染2日後から感染菌数は上昇し、4齢時には定常状態となることが明らかとなった。 (2)に関しては、各種細菌をオオホシカメムシへ人工的に感染させた上で飼育し、成虫まで成長するかを調査した。オオホシカメムシ由来単離菌GFP株やそれらに系統的に近縁なバークホルデリア属細菌を感染させた場合、6割以上の個体が成虫まで至った。一方で、ホソヘリカメムシ共生細菌など系統的に遠縁なバークホルデリア属細菌を感染させた場合には、全個体が成虫に至らず死亡した。よって、オオホシカメムシへの感染能や共生細菌としての機能発揮能は、バークホルデリア属細菌の一部の系統で獲得された形質であることが示唆された。
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