研究課題/領域番号 |
19K15852
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
佐久間 知佐子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (10747017)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ネッタイシマカ / 血漿 / 吸血 / 味覚 / 遺伝子編集 / 蚊 |
研究実績の概要 |
蚊の吸血行動は、感染症の原因となる病原体伝播の根源となる行動である。また数分の吸血行動の前後で蚊が吸血標的に対して誘因と忌避という真逆の行動を示す点で、神経行動学的に興味深い。吸血前に吸血標的へと蚊が誘引される機構の研究は盛んである一方、血の味覚受容による吸血開始・吸血飽和状態の感知・吸血停止に関しての研究は遅れており、分子基盤の解明が求められている。本研究ではこれら吸血行動の分子基盤の解明を目指した。 2019年度は血の味覚受容の解明に焦点を当てた。蚊の吸血促進には、吸血標的の赤血球由来のATPが重要であることは古くから知られていたが、吸血における血漿の働きは着目されていなかった。今回、血漿にATPを添加させたものを蚊に擬似吸血させたところ、ATPのみの場合に比較して、吸血割合・度合が共に減少していることが判明した。よって血漿中に吸血抑制活性を持つ因子があることが示唆された。この吸血抑制効果は、複数の動物種の血漿で確認されたことから、血漿に普遍的に吸血抑制因子が存在すると考えられる。血漿を煮沸した後に遠心分離して得た上清でも吸血抑制活性があったことから、非タンパク質性の因子であることが予想された。また逆相カラムを用いたHPLC分画より、親水性の物質であることが明らかになった。さらに解析を重ねることで吸血抑制因子の実体を同定することを目指す。並行して、非吸血性のオス蚊に比べ、メス蚊の口吻先端で発現が顕著に高いことが報告されていた味覚受容体、Gr5に関して、CRISPR/Cas9を用いて新たな機能欠損ネッタイシマカの作製に成功した。我々の以前の研究よりGr5は吸血促進に寄与していることが示唆されているため、この変異体の解析より、Gr5の詳細の機能解明が進むと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
吸血抑制効果を持つ血漿因子の探索に関しては、HPLCによる分画では活性画分を見出せないことが懸念されたが、この手法で候補分子を絞り込むことができることが判明したのは画期的であった。さらなる解析を重ね、活性画分を絞り込むことで、吸血抑制因子の実体に迫ることができると期待される。ネッタイシマカを用いた遺伝子編集に関しては、経験を重ねることで、効率良い変異体作製が可能になった。Gr5以外の吸血に関与する可能性のある分子群に関しても、変異体作製に成功していることから、概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
血漿内の吸血抑制因子の同定に関しては、さらなる解析を重ねることで吸血抑制因子の実体に迫ることを目指す。具体的には、親水性分子の分離に優れたHILICカラムを用いたHPLC分画により、吸血抑制効果を持つ画分を絞り込み、MS/MSで構造式を推定する。得られた候補化合物にATPを添加したものを蚊に提示することにより、吸血抑制効果を検証する。 Gr5機能欠損ネッタイシマカに関しては、人工吸血器を用いた吸血を行うことで、吸血に要する時間、吸血率、吸血度合を定量する。またATP溶媒の擬似吸血に関しても同様の解析を行う。並行して、培養細胞を用いたイメージングなどを行うことでGr5のリガンド探索を目指す。また、Gr5以外の吸血に関与する可能性のある分子群に関しても、変異体作製に成功していることから、これら変異体の表現型解析を進めることにより、吸血を制御する分子基盤に関して知見を集積する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なった。また当初予定していた年度末の学会参加をCOVID-19の影響で取りやめたため、未使用額がさらに生じた。しかし、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。
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