研究課題/領域番号 |
19K15855
|
研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
長峯 啓佑 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, JSPS 特別研究員 (20817548)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 昆虫ウイルス / 共生微生物 / オス殺し / 培養細胞 / 潜在ウイルス |
研究実績の概要 |
本研究では,ウイルス感染によりメスしか産まなくなったハスモンヨトウの系統(全メス系統)を用いて,宿主の生殖操作を行うウイルス(全メスウイルス)の伝播戦略を調査し,ウイルスが昆虫の性を操作することの進化的意義を探求する.また,全メス系統からウイルスを精製・分離し,ウイルスのゲノム配列の決定,性比異常を引き起こす遺伝子の特定に挑戦する. 当初の計画に沿い,前年度は①性染色体構成の組織学的証明,②全メスウイルスの性状解析を完了し,本年度は③オス殺しの遺伝学的証明,④宿主集団内での全メスウイルス伝播戦略の探索,⑤培養細胞を用いた全メスウイルス培養系の確立,⑥組換え全メスウイルスの作成を検討した.それぞれの課題の進捗を以下に記載する. ③ハスモンヨトウの性染色体はメスヘテロのZZ/ZW型である.全メス系統のメス成虫と通常系統のオス成虫,さらにこれらを掛け合わせて得られた子世代のZ染色体をジェノタイピングした結果,すべてメスである子世代には父親由来のZ染色体のみが遺伝していることが明らかになった.これは全メス化のメカニズムが「遺伝的オスのメス化」や「産雌単為生殖化」ではなく「オス殺し」であることを示している. ④長期の飼育実験を伴う本課題は,COVID-19の感染防止対策として出勤削減を頻繁に求められた本年度には実施することができなかった. ⑤宿主であるハスモンヨトウ由来の培養細胞に,全メスウイルス感染虫の磨砕液を滴下することで培養細胞への感染・増殖が確認され,全メスウイルスの培養系が確立された. ⑥当初の予定では,組換えウイルスを用いた全メスウイルス遺伝子の機能解析を計画していたが,より簡便な代替手法として,卵移行ペプチドを付加した組換えタンパクを用いた機能解析を試みることにした.現在までに,この実験系を用いてハスモンヨトウの卵に組換えタンパクを移行できいることを確認している.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はCOVID-19の感染防止対策のため,継続的な飼育実験が困難であり,全メスウイルスの伝播戦略の解明は計画通りに進めることができなかった.その一方で,他のテーマについては,全メスウイルスによる性比異常のメカニズムがオス殺しであることが示され,さらに培養細胞を用いた全メスウイルス培養が可能になるなど,当初の計画に沿って進捗した.加えて,当初計画していた組換えウイルスを使わずに性比異常の原因遺伝子を特定する手法として,卵移行ペプチドを利用した機能解析法の導入に成功した.これらの進捗を鑑みて,自己評価を「やや遅れている」とする.
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は今年度に実行できなかった「宿主集団内での全メスウイルス伝播戦略の探索」を行う. また,当初の計画に沿い,「全メスウイルス遺伝子の機能解析」を行い,性比異常を引き起こす原因遺伝子,すなわちオス殺し遺伝子の特定を行う.
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究実績概要に記載した通り,一部の計画を延期したため次年度使用額が生じた.次年度使用額分は,次年度に延期した当該計画に使用する.
|