研究課題/領域番号 |
19K15856
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
中濱 直之 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 講師 (50807592)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | MIG-seq / 博物館標本 / 標本DNA / 絶滅危惧種 / 昆虫 / 植物 |
研究実績の概要 |
2019年度は、ミヤマシロチョウ、ギフチョウ、ハマアザミ、マツナ、ウンラン、サギソウといった絶滅危惧昆虫・植物のほか、キキョウ、オミナエシ、スズサイコをはじめとする複数の草原性絶滅危惧草本植物について、自然史博物館及び野外の生息地から集団遺伝解析用サンプルの収集を実施した。現時点では、ウンラン、ハマアザミ、サギソウについて解析に必要なサンプルをそろえることができた。サンプリングの際には、野外個体を捕殺せず個体への影響を小さくすること、また標本が持つ形態形質情報を破壊しないように最大限の注意をしている。 このうちサギソウについては、兵庫県内の生育地33か所で得られたサンプルを用いて兵庫県内における保全単位(移動可能な地理的な範囲)を推定した。解析に用いた手法は、ゲノム情報を縮約して集団解析が実施できるMIG-seq法である。解析の結果、兵庫県内における保全単位を設定できたほか、栽培品種の侵入に伴い野生集団の遺伝子汚染が発生していた生育地を特定できた。サギソウを除く対象種については、2020年度以降に順次遺伝解析を実施する予定である。 また、標本から遺伝解析を容易に実施するための方策として、昆虫標本中でDNAを長期保管する方法を開発した。本研究については2019年度中に分子実験及び論文執筆が完了し、European Journal of Entomology誌に出版したほか、プレスリリースにより研究成果の普及啓発を実施した。さらに、本研究成果を含めた保全遺伝学的研究における博物館標本について議論した総説論文を執筆・投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サギソウについては姫路市立手柄山温室植物園や神戸大学との共同でサンプリングを進めることで、概ね予定していたサンプリングを実施することができた。また、他種については、中部地方から近畿地方を中心に野外のサンプルを収集できている。標本サンプルについても兵庫県立人と自然の博物館、神奈川県立生命の星・地球博物館、信州大学自然科学館から必要なサンプルを収集することができた。 遺伝解析については2019年度はサギソウのみで実施する予定であり、東北大学との共同研究により、概ね必要なデータを得ることができた。さらに並行して、昆虫標本中のDNA情報の保存方法の確立をすることができた。 これらの事から、おおむね順調に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
まず、サギソウの結果について論文執筆をし、2020年度中の投稿及び出版を目指す。次に、現在収集しているミヤマシロチョウ、ギフチョウ、マツナを継続して今後も収集する。サンプルが集まった時点で、MIG-seq法による遺伝解析を実施する予定である。さらに今後もほかの絶滅危惧種について研究を遂行するために、遺伝解析のサンプルの予定をしている。しかし、2019年度末の新型コロナウイルス感染症の世界的な流行に伴い、サンプリングの遂行が今後難しくなることが予測される。その際は、現時点で収集しているサンプルの解析や論文執筆を優先させ、感染症の流行が収まり次第サンプリングを開始するなどの対応策をとる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は研究開始年度なので解析予定種数はサギソウ1種の予定であり、無事に予定通り研究を進めることができた。2020年度については少なくともウンラン、マツナ、ハマアザミ、ミヤマシロチョウ4種についてMIG-seqの解析を実施する必要がある。これらについて解析を進めるには多くの試薬を用いる必要があり、物品費がかかることが予想される。また、2019年度に購入した解析用コンピューターが当初の想定より安価で購入できたことから、主にその差額を次年度使用額とした。 2020年度の計画としては、これらの次年度使用額を主に解析試薬の購入など物品費に充てる。このように当初の計画よりも多くのサンプル数を解析することになったとしても、確実に遺伝解析を実施できるようにしたい。
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