シカの個体数増加による森林生態系への悪影響が日本全国において問題となっている。特に下層植生の衰退は土壌浸食を促進し、土砂流入の増加や水質の改変など、隣接する河川生態系にも影響が拡がるとされる。しかし、集水域森林においてシカ害が生じた河川生態系において、その影響を検討した研究は少なく、なにを、どのように調べれば適切な影響評価が行えるのかという手法の確立にも至っていない。様々な要因が同時に影響しうる河川生態系において、集水域で生じたシカ害の影響を検証するため、本申請ではシカ害以外の要因も考慮した多地点比較によるアプローチを提案する。申請者らがこれまで行なってきた生態系モニタリングをより効率的に多地点調査へと発展させるため、GISを用いた調査地点選定および環境DNAメタバーコーディングによる生物観測を導入する。本研究により、シカ害の影響について多地点における迅速な河川生態系への環境影響評価の実施が可能となる。 2020年度は、京都大学芦生研究林における環境DNAメタバーコーディングの性能評価のための魚類、水生昆虫およびシカを対象とする採集および野外観察を行った。魚類および水生昆虫について、シカの排除区とコントロール区でそれぞれ、除去法またはコドラート法による種組成および生息密度調査を行った。野外観察と並行して、環境DNAの採集を行った。 現在までに本研究に関連して申請者がこれまで行ってきた京都大学芦生研究林における長期生態系モニタリングに関する成果を学術論文として公表した (Nakagawa 2019 Conservation Science and Practice)。また、リアルタイムPCRによるシカのDNA検出の結果について、2020年度生態学会大会において報告した。 現在、芦生研究林の魚類について、環境DNAメタバーコーディングの実験を完了し、結果の解析を進めている。
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