研究課題/領域番号 |
19K15862
|
研究機関 | 地方独立行政法人大阪市博物館機構(大阪市立美術館、大阪市立自然史博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪 |
研究代表者 |
松井 彰子 地方独立行政法人大阪市博物館機構(大阪市立美術館、大阪市立自然史博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪, 大阪市立自然史博物館, 学芸員 (00803363)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 遺伝的集団構造 / 系統地理 / 生息環境 / 短期的変動 / ハゼ科魚類 / 沿岸生物 / 瀬戸内海 |
研究実績の概要 |
本研究は、瀬戸内海周辺海域において、沿岸性魚類の集団構造およびその短期的な変動が生息環境とどのように関係しているのか明らかにすることを目的としている。昨年度までに、モデル生物として選定した干潟、岩礁、内湾深所のハゼ科魚類計9種について、瀬戸内海を含む西日本各地で標本を採集し、ゲノムワイドな一塩基多型(SNPs)の情報を得た。本年度(2021年度)は、そのSNPsデータを用いて集団構造解析を行うとともに、集団構造の短期的変動を調べるために2019年度に採集した標本の分子遺伝学的実験の準備(組織の切り出しやDNA抽出)を進めた。 集団構造解析の結果、干潟種のうち特に閉鎖的な環境に生息する種では太平洋集団、日本海集団、東シナ海集団が異なるクラスターを形成しており、瀬戸内海集団は太平洋集団および東シナ海集団の両方の要素から構成されていた。このことから、一部の干潟種の瀬戸内海集団では、太平洋の祖先集団と東シナ海の祖先集団との遺伝的混合が生じたことが示唆された。一方、岩礁種および開放的な河口干潟に生息する種では、太平洋集団、日本海集団、東シナ海集団が異なるクラスターを形成したが、瀬戸内海集団の大部分は太平洋集団の要素のみで構成されていた。内湾深場に生息する種では、太平洋・日本海・東シナ海・瀬戸内海の間で地理的な集団構造は認められなかった。 これらのことから、生息環境の異なる種間では、最終氷期以降の瀬戸内海集団の形成過程が異なっており、最終氷期やそれ以降の生息適地の分布の違いや仔魚分散の大きさの種間差が集団構造のパターンに影響したと考えられた。 これらの成果を第69回日本生態学会大会にて発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度当初の計画では、集団構造の短期的変動を捉えるために、多地点での採集調査を3年度連続で(3回繰り返して)行う予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大防止にかかわる府外への出張自粛要請をうけ、2020年度に採集調査に行くことができず、本年度も計画通りに進められないことが見込まれた。そのため、本年度頭の時点で、研究計画を見直し、調査の繰り返し回数を2回に変更した。本年度は、見直した推進方策(SNPsを用いた集団構造解析と2019年度採集分の標本のシーケンス準備)に概ね従って、研究を遂行することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は、生息環境の異なるハゼ科魚類複数種について集団構造の短期変動を捉えるため、瀬戸内海東部(大阪湾~紀伊水道)で2019年に続く2回目の採集調査を行う。また、2019年度に採集した標本について、MIG-seq法によりゲノムワイドSNPsを得る。 同様に、2023年度は2022年度に採集した標本からSNPsを得る。また、2019年度採集分と合わせて集団構造解析を行い、2019年度・2022年度間の集団構造の変化について調べる。このような狭域(瀬戸内海東部)における集団構造の短期的な変化と、2021年度までに明らかにした広域(瀬戸内海とその周辺海域)における集団構造から、沿岸性魚類の種内集団構造の短期的変動、および生息環境と種内集団構造との関係について総合的に考察する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度頭の時点で、2022年度頭に実験を予定し2021年度末の購入を予定していた分子遺伝学的実験(MIG-seq法)用の試薬の購入が2022年度にずれ込んだため。次年度使用額は当初の予定通り、分子遺伝学的実験用の試薬の購入にあてる。
|