研究課題/領域番号 |
19K15865
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松林 志保 大阪大学, 工学研究科, 特任准教授(常勤) (60804804)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 鳥類自動観測 / 希少種保全 / 夜行性鳥類 / マイクロフォンアレイ / ロボット聴覚 / 外来種 / 歌行動 / リモートセンシング |
研究実績の概要 |
本研究は、音の到来方向が推定可能な録音機材マイクロフォンアレイとロボット聴覚で構成される「聞き分けるロボット」を活用して自動観測した野鳥の歌から、どの鳥がいつどこで鳴くのか、さらに生息地空間(ランドスケープ)と歌を鳴き交わす音空間(サウンドスケープ)においてなぜその歌コミュニケーションが行われるかを明らかにし、その知見を生態理解へ応用することを目的とする。 具体的には次の3点を検証する。まず、第1に、目視観測が難しい夜行性鳥類を音に基づく観測実用性を探る。観測対象はフクロウ等の希少種とする。対象種は生息地環境の縮小により絶滅が危惧されているため、正確な生態情報の収集は重要な課題である。また、音による受動的な観測は、一般的な小型通信機などに比べて観測対象種に低ストレスであるという利点も持つ。 第2に、歌空間・生息空間をめぐる外来種の影響評価に取り組む。鳥にとって音空間は生息空間と同様に有限な資源であり、複数種が共存する環境では、各種の空間分布は歌空間をめぐる競争を反映するはずである。観測対象を、侵略的外来種ソウシチョウと、同種と共存しかつ近い周波数帯の近い歌をもつ在来種ウグイスとし2種間に歌空間と生息地をめぐる競争が発生しているという仮説を検証する。 第3に、歌と繁殖成功率で測るオスの質・縄張りの質の関連評価に取り組む。鳴禽類のオスの歌は、縄張り形成や保守、つがい相手のリクルートや繁殖行動の促進などの機能を持つ魅力形質である。しかしながらオスの歌の質、歌で獲得する縄張りの質、そして婚姻外交尾を含む繁殖成功率の関係は未検証である。観測対象を、米国テキサス州で修復された希少な生態系プレーリー草原に生息するゴシキノジコとし、その歌行動から縄張り推定とともに生息地の質を測る。同時に、研究料力者が運営する遺伝ラボでの解析から得たヒナの遺伝的父性情報からこれら3要素の関係解明を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度の国内外フィールド調査は順調に進行し、夜行性鳥類の歌行動観測に関する成果を各種学会や学会誌で発表した。景観生態学会ではポスター賞を受賞するなど、生態学分野の関連研究者および環境調査実施者から高い評価を得た。また、AI技術を活用した鳥類の自動観測、希少種の生息地管理、外来種管理などの応用可能性について、国際シンポジウムや一般公開講座、学会の若手研究者を対象とする自由集会などで講演しアウトリーチに努めた。一方、遺伝的父性情報で測る繁殖成功率と歌に基づく縄張りの質に関する課題は、遺伝解析に必要な雛のサンプル数の少なさから予備的段階である。 令和2年度は前年の予備的調査をふまえ本格的調査に取り組む最重要調査年であり、また関連研究者からのフィードバックをもとにアウトプットを充実させる年と位置付けていたが、COVID-19の流行により研究計画の変更はやむを得ない状況である。具体的には、各種鳥類の歌データを収音できる時期がCOVID-19の流行時期と時期的に重なったため海外調査は不可能となり、長距離移動を伴う国内調査も大部分はキャンセルした。その代替策として、国内調査に関しては調査地付近の研究協力者に録音調査を依頼、現地調査の代わりとして数週間連続録音が可能な録音機材の活用、近距離別調査地への変更などを実施したデータ収集に努めている。しかしながら、遠隔での録音機材の調整の難しさや、現地の視察なしで録音調査を実施せざるを得ない状況であるため、入手できるデータは現時点では限定されている。
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今後の研究の推進方策 |
鳥類の歌行動は、鳥それぞれが限定された生息地に棲み、また活発に鳴く繁殖期は早春から初夏まで、種によってはわずか数週間の短期間で行われるなど位置的にも時間的にも限定された活動であるため、その観測は適切な場所とタイミングで行うことが必須である。現時点(5月末)において、COVID-19 の拡散防止のための移動自粛は徐々に解除されているものの、すでに当初予定していた調査地での研究対象種は繁殖のピークを終え、別地点でのフィールド調査実施も厳しい状況である。 今後の研究の推進方策としては、来年度以降もCOVID-19 の影響から距離移動制限が発生する可能性があるため、継続して研究協力者に録音代行依頼、現地調査に代わる長期間録音機材への切り替え、近距離調査地への変更などの代替案で対応し、その上でこれらの代替案でも遂行可能な研究課題に絞ることを検討中である。 特に長時間録音機材のうち、現在開発中の音の到来方向を推定する16チャネルマイクロフォンアレイについては、鳥類観測現場からのニーズが高い反面、これまで機材調整や録音後の音声分析解析ツールの利用が難しいといった点がボトルネックとなっていた。現地調査が制限された今期、調査地で人間の調査者の代わりに位置情報付き録音を実施するという点でその有効性が証明されたため、録音機材および音声分析解析ツール開発者双方と協働し、生態学者でも使えるツール開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由を下記に述べる。まず初めに、当初購入を予定していた物品のうち、現在開発中の長期間録音用機材16チャネルマイクロフォンアレイの新モデルが開発されることになり旧モデルの購入を控えたため、物品費に差異が生じた。代替として、当該年度は、研究協力者から譲渡された長期間録音用機材16チャネルマイクロフォンアレイ旧モデルとともに、新たに防水加工を施した簡易型8チャネルマイクロフォンアレイを用いて研究課題を遂行した。2020年度には長期録音型16チャネルマイクロフォンアレイの新モデルが開発見込みであるので、発売後に購入し研究課題に取り組む予定である。 次に、COVID-19の影響により、野外調査や学会のキャンセルが相次いだことにより当初予定していた旅費が減少した。当該年度は代替として、上記の長期間録音用機材16チャネルマイクロフォンアレイ旧モデルを活用し、現地の調査回数を減らす、調査地近辺の研究協力者に録音調査を代行依頼などの対応で研究を遂行した。2020年度への旅費繰り越し額は、COVID-19関連の自粛が継続する中でも調査可能な近距離調査地開拓や、新規調査地の下見、研究協力者との打ち合わせに使用予定である。
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