研究課題/領域番号 |
19K15869
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研究機関 | 北九州市立自然史・歴史博物館 |
研究代表者 |
中原 亨 北九州市立自然史・歴史博物館, 自然史課, 学芸員 (10823221)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ノスリ / 里山環境 / 遠隔追跡 / 猛禽類 / GPS |
研究実績の概要 |
生物多様性の損失を阻止することは世界的課題であり、日本では里山環境の喪失に伴う生物多様性の損失状況を把握することが求められている。生物多様性の指標となる種を選定して利用環境を明らかにすることができれば、過去から現在、そして未来にかけて、生息適地がどの程度増減するかを予測することで、高い生物多様性を内包する地域の変遷を追うことが可能となる。本研究では、九州をモデル地域として、冬季里山生態系を代表する猛禽類ノスリの指標種としての妥当性と、生息適地の増減を予測することにより、高い生物多様性を内包する地域の変遷を定量化することを目的としている。そのためには、まず第一段階として、ノスリの利用する環境を詳細に把握することが必須事項となる。平成31年度は、研究協力者らとともに、11月末から2月初旬にかけて里山に生息するノスリを捕獲し、GPS機器を装着して個体の遠隔追跡を行った。調査の結果、福岡県・長崎県・宮崎県において越冬していた16個体を捕獲し、うち13個体にGPS発信機を装着し、最短約1か月、最長約4か月の越冬期の位置情報(測位地点数にして約300~1300地点)を得ることができた。これらの個体の遠隔追跡は現在も継続中である。 令和2年度は、得られた位置情報をもとに越冬期の追跡個体の行動圏をそれぞれ推定し、詳細な利用環境について明らかにする予定である。また、追跡個体の行動圏内外、または行動圏内の高頻度利用地域と低頻度利用地域において各分類群の生物調査を実施し結果を比較することにより、ノスリの生息場所の生物多様性が高いかどうか(生物多様性の指標種として妥当かどうか)についても検証していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成31年度は、研究に必要な個体の捕獲とGPS機器の装着を主な目的とした。研究協力者らとともに行った捕獲調査の結果、12月初旬に宮崎県で6個体、12月下旬~2月にかけて福岡県で5個体、11月・2月に長崎県で2個体の計13個体のノスリにGPS発信機を装着することができた。装着した機器は捕獲時の個体の体重の4%以内に収まるものを選んだ。機器を装着したノスリからはおよそ4時間に1回または2時間に1回の頻度で測位情報が得られた。3月・4月に渡りを開始して渡去するまでの間に、最短で約1か月、最長で約4か月の越冬地での追跡記録を入手することができた。以上のように平成31年度の目的は達成されており、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
①平成31年度に追跡した13個体から得られた測位情報(測位地点数にして約300~1300地点)をもとに、各個体の行動圏を推定する予定である。行動圏推定においては、測位点数すべてを用いる場合と、日中の活動時間の測位点に絞る場合の2つの場合について、行動圏を推定する。また、測位点データから、行動圏の中でも高頻度に利用されたエリアを抽出し、その環境要素を調べる予定である。令和2年度の冬季に追跡個体が繁殖地から戻ってきて、継続して越冬地の測位情報が得られた場合には、データを追加して行動圏を再度推定し直す予定である。また、R2年度も引き続き冬季に捕獲調査を行い、新規個体にGPS機器を取り付ける予定である。 ②平成31年度に追跡し推定した行動圏のうち、調査地にアクセスしやすい場所においては、令和2年度冬季に行動圏内の生物多様性調査を実施する。調査は、ラインセンサスないしスポットセンサスによる鳥類調査・自動撮影カメラによる哺乳類調査・現地踏査による小型脊椎・無脊椎動物調査を想定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
交付額が応募時の希望額から減額され、GPS機器の購入数を減らさざるを得なくなった。しかし研究の基盤となるデータ取得に必要なものであるため、可能な限り数を確保したいのが実状である。本年度は調査日程の短縮等により旅費使用額が少なくなったため、交付時の予定より1つ多くGPS機器を購入することができたが、2つ購入するには残額が足りなかった。残額は、次年度交付額と合わせて、GPS機器の追加購入に充てる予定である。
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