研究課題/領域番号 |
19K15869
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研究機関 | 北九州市立自然史・歴史博物館 |
研究代表者 |
中原 亨 北九州市立自然史・歴史博物館, 自然史課, 学芸員 (10823221)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ノスリ / 利用環境 / 二次的自然 / 生物多様性 / 遠隔追跡 / GPS |
研究実績の概要 |
本研究では、二次的自然に生息するアンブレラ種のノスリを指標種とし、ノスリの存否をもとに高い生物多様性を内包する環境を抽出し、その変遷を明らかにすることを目標としている。 2020年度は、GPS発信機による遠隔追跡で得られたノスリの位置情報をもとに越冬期のノスリの行動圏をそれぞれ推定し、詳細な利用環境について明らかにした。まず、ノスリの追跡データから越冬期間のデータを抽出し、dynamic Brownian Bridge Movement Model (dBBMM)を用いて行動圏(95%利用分布)を推定した。次に、ノスリを捕獲した地域(長崎・福岡・宮崎)毎にノスリの行動圏と同サイズの対照区を設け、行動圏・対照区それぞれにおいて「標高のばらつき」「農地面積」「森林面積」「市街地面積」「林縁長」「農地モザイク性指標」を算出した。また、これらの変数がノスリの行動圏選択に影響しているかどうかについて、ロジスティック解析を行った。その結果、長崎では標高のばらつきが中程度で農地モザイク性の高い場所を、宮崎では農地面積が大きく市街地面積が小さい場所を、福岡では標高のばらつきと農地面積が中程度で、市街地面積が小さく農地モザイク性が高い場所をノスリが選択していることが明らかになった。これらの結果は地域によってノスリの選択する環境が少しずつ異なることを示した一方で、この違いにはそれぞれの地域の里山環境の土地利用の違いが反映されていることも明らかになった。 また2020年度は、越冬期のノスリが実際に使用していた行動圏のコアエリア内外の鳥類・小動物群集調査を実施した。果樹園を多く含む長崎の行動圏では、コアエリア内の鳥類個体数が多く、コアエリア外と比較して相対的にメジロやホオジロ類が多く観察された。小動物群集については解析中である。同様の調査は田畑の多い北九州でも行っており、現在データ整理中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の結果を受けて、2020年度は当初、主に①越冬期のノスリの行動圏の生物多様性を調査すること、ならびに②越冬期のノスリの生息環境解析を行うことを目標とした。 ①越冬期のノスリの行動圏の生物多様性調査:コロナ禍であったものの、遠隔の調査地については協力者の助けを得られたことと、近隣の調査地については感染対策を施したうえで人とほとんど接触せずに調査を実施できる場所であったことから、期待した規模での調査を実現できた。 ②越冬期のノスリの生息環境解析:2019年度までに捕獲したノスリから遠隔でGPS測位情報が得られていたため、利用環境の解析を行う上で最低限のデータは集まっていた。データ解析はデスクワークであったため、コロナ禍の影響は大きくは受けなかった。また、小規模ながら、ノスリの利用環境解析のための追加調査(個体の追加捕獲・追跡)も実施することができた。 以上のような点から、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、得られているデータから、①ノスリが二次的自然の指標種として適切かどうかの評価をおこなうとともに、②ノスリの生息環境予測モデルの構築ならびにその転用を実施する。 ①ノスリが二次的自然の指標種として適切かどうかの評価:長崎と北九州で得られた生物多様性調査の結果をもとに、ノスリ行動圏のコアエリア内外の生物相を比較する。長崎の調査地は果樹園、北九州の調査地は田畑が多い環境であるため、異なる環境であってもノスリが指標種として適切かどうかについても検討したい。 ②ノスリの生息環境予測モデルの構築ならびにその転用:まず、国土交通省の提供している土地利用データ等を活用し、調査区域におけるノスリの生息環境予測モデルを構築する。次に、そのモデルを九州全体に転用し、現在の九州にノスリの越冬できる環境がどの程度あるかを推定する。さらに過去の土地利用データや土地利用の将来予測データを用いて、過去や将来にノスリが越冬できる環境がどれくらいあるか(あったか)を定量化することにより、ノスリの生息できる豊かな生物多様性を内包する環境の増減を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、参加予定だった2つの学会が中止/オンライン開催となったため、旅費として計上していた額が次年度繰り越しとなった。これらに使用する予定であった額は、論文の英文校閲費に充てる予定である。 2021年度は、論文2本分の英文校閲のために助成金を使用するほか、追加野外調査・学会参加にかかる旅費として使用する予定である。
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