研究実績の概要 |
まず、本研究に適したリンの分画定量法を探るため、先行研究の整理と予備実験を行った。予備実験では、八郎湖森林流域の9地点の土壌を用いて、関谷法とHedley法の抽出を行い、それぞれの方法で抽出されるリン量や各画分のリン比率を比較した。その結果、両法で抽出効率が異なったが、それぞれで鉄と関連する画分に相関関係が見られた。この結果をもとに、関谷法をベースとし、無機リンと有機リンの評価を行うこととした。 アロフェン質黒ボク土、非アロフェン質黒ボク土、褐色森林土が分布する秋田県西部の八郎湖森林流域内のスギ林29地点から0-10cm, 10-20cm深の土壌を採取した。この土壌試料を用いて、全リン量測定、関谷法によるリンの分画定量、火山灰土の混入程度の評価(酸性シュウ酸塩可溶の鉄とアルミニウム、ピロリン酸可溶のアルミニウム)を行った。その後、全リン量や分画したリン量に火山灰土の混入程度指標や土壌pH、地質、標高、傾斜などの地形要因がどのように影響するか検討した。その結果、地質帯によってリンの賦存量には違いがなく、標高の影響が大きいことと、傾斜の急な場所ほど土壌中のリンが増えることが明らかとなった。その上で、火山灰の土壌への混入量が増加すると利用しにくい形態のリンが増加することが明らかとなり、また、土壌pHがリン利用性に影響することが示唆された。 さらに、リンの利用性が土壌窒素の空間分布に与える影響を検討するために、リン利用性や黒ボク土の混入程度と土壌の全窒素量を比較した。窒素無機化速度指標は利用性の低いリンとは有意な相関がないが、ピロリン酸可溶アルミニウムと有意な正の相関があることが明らかとなった。利用性の低いリン量はピロリン酸可溶アルミニウムと正の相関があったため、リンの利用性と窒素の利用性はともにピロリン酸可溶アルミニウムに影響を受け、複雑な相互作用の存在が示唆された。
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