最終年度では、複数市を対象として、ロジスティック回帰、生存時間解析、および階層ベイズの手法により、林地の空間的条件が林地の皆伐されやすさに与える影響を定量化した。その結果、どの手法においても全体的な傾向として林業の収益性が良い(緩傾斜、道から近い)林地で皆伐されやすいことが示された。一方で、平坦地や建物の近傍等では比較的皆伐されておらず、木材以外の生態系サービスへの配慮が影響したものと考えられる。また、それぞれの因子の影響度合いは地域によって異なり、生態系サービスの利用方法の違いが表れていた。 研究期間全体で、皆伐に関する所有者の意思決定に林地の条件が及ぼす影響を実データから明らかにした。各種統計手法により、林地の空間的条件が皆伐されやすさに与える影響を定量化し、地域によって傾向が異なることを確認した。特に「皆伐後の植栽を促進する地域(促進地域)」を設定した市において、皆伐地選択への影響を傾向スコア法により検証した。その結果、コストがかかる植栽を忌避して、促進地域内では皆伐が行われない傾向が確認された。この成果は、民有林における地域政策の効果を客観的に評価でき、誘導の効果を考慮した地域政策の策定に貢献する。 また、計画にはなかったが、複数市で生態系サービス(ES)評価マップ(表層崩壊防止、表土保持、レクリエーション)と皆伐箇所マップを重ね合わせて解析した。環境意識の高い市では、ESの重要性が高い林地で皆伐が控えられていた。一方で、環境意識が低いと考えられる市ではESの評価値と皆伐箇所の間に関係性はなく、林業経営によるES劣化の懸念があった。本成果はESと伐採の関係性を元とした、効果的な地域政策の立案に貢献する。
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