研究実績の概要 |
本研究は「可視-近赤外ハイパースペクトラル空間分解分光法」という新しい概念を提案し、木材試料に照射した点光源の空間分布から多波長の吸収・散乱特性を高速、同時に取得する光学系を考案・設計する。それによって、多変量解析の援用によってスペクトルから試料情報を予測するアプローチから脱却し、各材質に適した新規予測モデルの構築を試みる。さらに、各樹種固有の光散乱特性に着目した非破壊・高精度な樹種識別アルゴリズムを提案する。 令和元年度は、木材に照射した光の伝播経路をモンテカルロ法でコンピュータシミュレーションを行った。その結果、同じ針葉樹もしくは広葉樹でも、樹種によって光散乱特徴の違いを確認できた。これらの光散乱情報を獲得するため、空間分解分光計測システムの設計・開発を行った。名古屋大学において可視-近赤外スペクトラルイメージングカメラ、光ファイバおよびハロゲン光源を主たる構成要素とする分光イメージングユニットを設計・試作した。光伝播経路のシミュレーション結果を参考に試作した測定装置は光源からの距離を6段階 (1mm, 2mm, 3mm, 4mm, 5mm, と 10mm)違えて測定する形となっている。また、各段階に6本の光ファイバを並べて拡散反射光の安定測定を実現できた。さらに、それぞれの光ファイバは30個ピクセル(可視-近赤外スペクトラルイメージングカメラ)を利用して光強度の検出を行っているため、これらの平均値を求めることにより、十分なSN比を得られた。 予備実験は15樹種に照射した点光源の散乱パータンの違いを着目し、高精度な識別に成功した。さらに、木材試料(スギ材およびヒノキ材)含水率、繊維走行および密度などの違いによって空間分解分光スペクトルの変化も確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は設計した近赤外ハイパースペクトラル空間分解分光装置を用いて、樹種判別実験の継続と木材材質の非破壊評価を行う。具体的に、各樹種の産地、採取部位 (例:成熟材、未成熟材)、乾燥状態など試料のバリエーションを増やす。これにより、樹種判別モデルの安定性を向上させる。また、簡易操作できるソフトウエアの改良かつ樹種自動判別アルゴリズムの構築を目指す。その他、含水率、繊維走行等を変更した木材試料(スギ材およびヒノキ材)を本装置で測定し、拡散反射光の空間分布からファレル式(Farrell et al., edphys, 1992)を基盤とするデータ処理アルゴリズムを構築する。これによって多波長の吸収・散乱係数の同時算出を試みる。適切な初期値の設定やデータ補正方法などの判断が困難な場合は、飛行時間分光法による検証実験を同時に進み、問題解決を図る。さらに、各材質予測に有効な波長もしくは波長領域を厳選し、ロバストな各材質(含水率、繊維走行及び密度など)の予測モデルを提案、検証する。
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