研究課題/領域番号 |
19K15887
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
戸高 昌俊 九州大学, 鉄鋼リサーチセンター, 特任助教 (60807832)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バイオマス / 脱リグニン / バイオディーゼル副生グリセリン / バイオリファイナリー / 針葉樹 / 再生可能エネルギー |
研究実績の概要 |
近年エネルギー政策として再生可能エネルギーが注目されてきたが、バイオマスを用いたバイオ燃料は製造コストが高くなる傾向ある。これを打開するにはより低コストな前処理方法や製造方法を開発する必要がある。リグノセルロースを原料とした酵素反応によるセルロースの糖化には脱リグニンの工程が必要である。一方で、バイオディーゼル生産において生成する副生グリセリンはアルカリ石ケン等の不純物が存在するためサーマルリサイクル程度にしか利用されていない。本研究では、バイオディーゼルの副生グリセリンを用いた木質バイオマスの脱リグニンを実施した。このプロセスにより脱リグニン処理された木質バイオマスはバイオエタノールの原料となり、リグニンを取り込んだグリセリン画分はそのまま利用することで発熱量の高い燃料となる。また、グリセリン画分からリグニンを分離することで、リグニンの材料利用にも発展することが予想される。このように、バイオディーゼル、バイオエタノール製造の双方において有効な副生グリセリンの有効利用法の確立を目的とした。これらを達成するため(a)石ケンを用いた脱リグニンの反応機構解明、(b)処理木粉の糖化に関する石ケンの影響、(c)グリセリン画分に移行したリグニンの用途探索を実施する。 本年度は主に、(a)および(b)について実施した。様々な鎖長の異なる石ケンを純グリセリンに添加することでバイオディーゼルの副生グリセリンモデルを作成し、それを用いたスギの脱リグニン処理を実施した。その結果、実際の副生グリセリンに含有することが想定される鎖長が12~18の石ケンで脱リグニンの効果があることが明らかになった。また、脱リグニン処理されたスギ木粉の酵素糖化挙動の研究を実施した。その結果、同程度まで脱リグニンされていたのにも関わらず、糖化の傾向が異なる場合が存在した。石ケンの種類によっては、糖化の促進効果が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
<(a)石ケンを用いた脱リグニンの反応機構解明>様々な鎖長の異なる石ケンを純グリセリンに添加することで模擬したバイオディーゼルの副生グリセリンを用いたスギの脱リグニン処理を実施した。その結果、実際の副生グリセリンに含有することが想定される鎖長が12~18の石ケン(脂肪酸塩)で脱リグニンの効果があることが明らかになった。さらに、低鎖長側の脂肪酸ナトリウム塩でも針葉樹の脱リグニンの効果を調査したところ、鎖長4までは脱リグニンの効果が認められた。しかし、鎖長3以下では脱リグニンの効果が大幅に低下した。これらの反応機構にはアルカリだけではなく他の要因も同時に作用していると推測される。未だ明確な反応機構は明らかになっていない。 <(b)処理木粉の糖化に関する石ケンの影響>異なる脂肪酸塩を用いて脱リグニン処理したスギ木粉の酵素糖化挙動の研究を実施した。その結果、同程度まで脱リグニンされていたのにも関わらず、糖化の傾向が異なることが明らかになった。そこで、市販のセルロースに脂肪酸塩を添加して酵素糖化反応を実施したところ、脂肪酸の種類や添加量によっては、糖化の促進効果が認められた。界面活性作用が影響を与えたことが要因であると考えられる。 <(c)グリセリン画分に移行したリグニンの用途探索>リグニンを取り込んだグリセリンは、グリセリン単体のときよりも発熱量が向上することから、そのまま燃料利用ができると思われる。一方で、リグニンを材料利用へと検討する方針では、グリセリン中からのリグニン単離方法は未だ確立していないため、木質バイオマスから除去されたリグニンの物性が明らかになっていない。
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今後の研究の推進方策 |
<(a)石ケンを用いた脱リグニンの反応機構解明>様々な脂肪酸塩を添加したグリセリンでスギ材の脱リグニン処理を検討したところ、低鎖長側では脱リグニンの効果が低下することが明らかになった。この反応機構にはアルカリだけではなく他の要因も同時に作用していると推測される。その要因を調査するため、各種脂肪酸塩の添加量などをパラメーターにして続き脱リグニン処理の挙動を調査する。また、処理されたスギ材の表面のSEM観察などの直接観察法を用いて脱リグニン反応機構解明へアプローチする予定である。 <(b)処理木粉の糖化に関する石ケンの影響>セルロースに脂肪酸塩を添加して酵素糖化反応を実施したところ、脂肪酸の種類や添加量によっては、糖化の促進効果が認められた。これは界面活性作用が影響を与えたことが要因であると考えられるため、界面活性剤の指標でもある臨界ミセル濃度などに着目して、酵素糖化挙動に与える影響を説明できるように引き続き糖化実験を進めていく予定である。 <(c)グリセリン画分に移行したリグニンの用途探索>これまでの(a)の研究により、様々な脂肪酸塩を含有するグリセリンでスギ材を処理することで、リグニンが混入したグリセリン画分が得られた。これらのサンプルに対して、リグニンを単離する方法を検討する。薬品を用いた分離方法や限外濾過法などを実施し、最適な分離方法を見出す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界情勢により学会等が中止になり繰越分が発生した。次年度に学会発表を積極的に行う予定である。
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