本研究では、木材の流動現象のメカニズムの解明と流動プロセスの改善を目的として、木材の脱成分処理や化学修飾を検討した。 脱リグニン木材は未処理木材よりも低い圧力で細胞壁が壊れることなく著しく流動した。脱リグニンはまず細胞間層で進行し、流動開始点の応力を低下させた。その後、細胞壁中のリグニンが除去されることで流動性が著しく増大した。また、流動開始点における応力はリグニンのガラス転移温度と相関がみられた。複数の脱リグニン処理を検討することで、脱リグニン木材の優れた流動性が、脱リグニン処理時の繊維破断の程度にも大きな影響を受けることを見出した。 化学修飾としては主にエステル化を検討した。針葉樹と広葉樹のブロック状試験片について、水酸基をエステル基に置換して熱可塑性を付与した。置換度の程度が異なる種々のアセチル化またはプロピオニル化木材を作製し、エステル化に伴って細胞壁が著しく膨潤すること、特にプロピオニル化木材が顕著な熱可塑性を有することを明らかにした。また、エステル化木材を流動成形用素材として三次元成形体を作製し、高い疎水性を有すること、複数回の再成形が可能であることも確認した。主に細胞間層で滑りが生じているものの、一部では細胞壁の破断も生じており、細胞間層における滑り以外にも流動を促進する要因が存在することを示した。さらに、種々のエステル化手法を用いて流動性との関係を精査し、年輪の接線方向への流動にはプロピオニル化度が、繊維方向への流動には細胞壁を構成する繊維の破断の程度が大きな影響を及ぼすことを見出した。 また、発展研究として、非加熱下で薬剤に10分間浸漬させるだけで木材表面をベンジル化する手法を開発した。ベンジル化木材の熱可塑性を利用した5分程度の加熱処理と組み合わせることで、水滴下1分後の接触角110°以上の撥水性木材表面を得た。
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