研究課題/領域番号 |
19K15893
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
矢萩 拓也 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (50808029)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 深海 / 熱水噴出孔 / 腹足動物 / 浮遊幼生 / 分析化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、海底から表層圏を範囲に、深海熱水噴出域固有動物の浮遊幼生における生態、行動、鉛直・水平分布の包括的な調査を行うことで、分散機構を体系的に明らかにし、幼生分散が熱水域生物群集の成立、生態系の機能および物質循環に果たす役割を評価する。 付加成長する殻体をもつ貝類は、殻の形態観察や化学分析により個体の成長履歴を追うことができる点で、幼生分散研究において優れた分類群である。本研究では、深海熱水域固有腹足類の幼生殻について初の化学分析を行い、浮遊幼生期における生育履歴の復元を試みた。酸素安定同位体比に基づく生育水温の推定では、解析に用いたシンカイフネアマガイ類の個体全てが、浮遊幼生期に海洋表層と同程度の水温を経験していることが示唆された。さらに、二次元高分解能二次イオン質量分析法NanoSIMSを用いた貝殻微量元素分析の結果、上述種個体の幼生殻は、成体の殻に比べて熱水環境水に特徴的な元素の含有量が低いことを明らかにした。これらは、浮遊幼生期に深海熱水環境から表層環境へ鉛直移動し分散する生態を示すデータと考える。貝殻酸素安定同位体比および微量元素分析に基づく本手法は、深海熱水域固有軟体動物の幼生分散復元にあたり極めて有効であると期待される。本年度は、16th Deep-Sea Biology Symposiumにオンライン参加し関連研究の情報を収集するとともに、2021年日本ベントス学会・日本プランクトン学会合同大会自由集会「分野横断で挑む海洋幼生生態学」を企画開催し、成果発表を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、深海熱水域固有腹足類の貝殻化学分析に基づく浮遊幼生期の生育履歴復元に注力し、新規のデータ取得・解析を行い、原著論文化を進めた。新型コロナウイルス感染防止を目的とする活動制限により、一部の実験・学会参加計画について変更が生じたものの、本研究は順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
本課題研究の実施によって得られた、深海熱水噴出域固有動物の浮遊幼生における生態、行動、鉛直・水平分布に関する新規の知見について、原著論文にまとめ発表を行う。また、国内学会大会参加や、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため延期となっていた国際学会大会に参加し、積極的に成果発表を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
学会参加および調査計画の変更に伴い、物品費や旅費に関する次年度使用額が生じた。次年度請求する助成金は、本課題研究遂行のための、生物採集・標本観察・遺伝子解析・化学分析に伴う物品費、調査・学会参加における旅費、その他(論文オープンアクセス費)への使用を計画している。
|