研究課題/領域番号 |
19K15894
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杉野 弘明 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (30751440)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 小規模漁業 / バランスト・ハーベスト / 持続可能性 / 暗黙知 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、漁業者が歴史的に有してきた暗黙知と、近年発展が著しい海の情報に対するセンシング技術を組み合わせることで、小規模漁業の持続的発展に寄与する知見をまとめることである。令和1年度(平成31年度)では、漁業者が有する海象に対する認知に関連する専攻研究や理論を概観し、概念や用語を整理するとともに、研究対象地の漁業者の方々が習得している漁業・養殖業における潜在的な知(勘や経験)を集約し、それらを海象の変化と共に捉えられるような「インデックス」を抽出することを目的として、インタビュー・ヒアリング調査を実施した。また令和2年度には、主に研究対象地における多魚種漁獲データから機械学習の技術を利用することで潜在的な漁獲パターンを抽出し、海象データとの関連性を検討し、人間の活動と海象の動きの関数としての漁労活動をモデル化することを目標とした。具体的には、[1]研究対象地において漁獲される魚を、基礎的な漁獲アーカイブを作成した。[2]次に、取得した現地にて行われている多魚種の漁獲データを基に、魚種毎の分析を行うのではなく、日、週および月単位における漁獲データ全体から抽出可能な潜在的なパターンを抽出することを試みた。令和2年度における現地における漁労活動の変化などが発生したため、イレギュラーなものとして考える必要性があるため、継続的にデータの取得は必要となるものの、今後はこれらの得られた情報を基盤として、設置予定の局所モニタリングシステムのデータとの関係性を記述し、各変数との関係性を明らかにしていきながら、目的達成に向けて解析結果のまとめを行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
目標としたバランスト・ハーベストを実現する漁業者が持つ暗黙知の顕在化について、調査協力者とのラポールの形成、およびヒアリングやインタビュー調査については、新型感染症対策状況下においても、電話やウェブ会議システムを利用することにより、一定程度進めることができている。先行研究における漁業者が有する暗黙知についての知見や周辺概念については、現地協力者の方から閲覧を許可して頂いた資料などにも目を通すに至るなど、順調に進捗していると言える。漁獲データの取得および解析について、Rを用いた解析プログラムの設計は完了しつつある。予備解析として、近隣海域でありウェブ上にデータが公開されている岩手県の漁獲データを基に、魚種同士の漁獲パターンの関連性などが解析できることを示すに至っている。ただし、新型感染症対策のため、今年度は現地調査に向かうことができず、また局地モニタリングシステムの試行設置を行う予定であったが、それも計画を実行に移すことが出来たなかったことから、実質的に研究の進捗が遅れている。以上の状況から、「やや遅れている」という区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、主に研究対象地における局地的な気象データと海洋情報をセンサーやモニタリングポストを設置することで取得し、漁労活動におけるアウトプット、すなわち漁獲との関連性を探り、予測モデルを構築していく。具体的には、下記を行っていく予定である。[1]現地漁業者との協力のもと、漁獲アーカイブに基づく簡便な漁獲レポートを作成し、実施する。[2]対象地に気象データや海象データを取得するモニタリングシステムの構築を行う。[3]以上2点から取得されたデータを突き合わせ、予測モデルを構築し、漁業者の方が有する暗黙知との整合性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は新型感染症対策により現地調査の実施を見送り、また現地に設置予定であった局地モニタリングシステムの設置を断念した。これは、研究協力を依頼している研究対象地が主に離島であり、東京からの研究者の往来について病理学的にも心理学的にも負荷をかけることは今後の研究実施に向けて支障があると判断してのことである。次年度使用額が発生した主な内訳は局地モニタリングシステム用の機器であるため、新型感染症の状況が収まり次第、機器を購入・設置し、研究進捗の遅れを取り戻す予定である。
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