本研究の目的は、漁業者が歴史的に有してきた暗黙知と、近年発展が著しい海の情報に対するセンシング技術、およびインターネット上に散らばるビッグデータを組み合わせることで、多様な魚種の漁獲を行う日本における小規模漁業の持続的発展に寄与する知見を深めることである。これまでは、漁業者が有する海象に対する認知に関連する専攻研究や理論を概観し、概念や用語を整理するとともに、研究対象地の漁業者の方々が習得している漁業・養殖業における潜在的な知(勘や経験)を集約し、それらを海象の変化と共に捉えられるような「インデックス」をContextual Inquiryを援用し、インタビュー・ヒアリング調査によって抽出した。また研究対象地周辺海域における多魚種漁獲データから機械学習の技術を利用することで潜在的な漁獲パターンを抽出し、海象データとの関連性を検討し、人間の活動と海象の動きの関数としての漁労活動のモデル化を試みた。研究対象地において漁獲される魚については、漁獲アーカイブが作成され、多魚種の漁獲データを基に、データ全体に見える潜在的なパターンを抽出した。これまでの調査を通して現地の漁業者の方々とのインタビュー調査などは継続的に実施できており、局所モニタリングポストの設置計画などを漁協との協議によって決定することができた。また、インターネット上に散らばるSNSベースのデータや、政府などにより発行されてきたデータなどを整理し、可視化することで今後の漁業における意思決定支援の在り方を探るデータベースの基礎的な知見を得ることができた。本研究で整理された局所モニタリングデータや、水産データ、SNSなどから得られる社会的データについては、それらを加工した上で現地漁業者の手元に返すシステム構築を目指すことが今後の研究展開として考えられる。
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